
なぜ電動ではないのか?
まずV8でW12の性能を上回った点については、ターボチャージャーの大型化や燃料噴射インジェクターの流量を引き上げることによって実現したという。これでV8エンジンを積むベースモデルを100psも上回る最高出力を達成したのだから大したものだが、このV8エンジンにはそれだけの余力があったとも言い換えられる。ちなみに、基本的に同じV8エンジンを搭載するランボルギーニのウルス・ペルフォルマンテ(販売終了済み)の最高出力は666psだったので、決して無理やりに650psを引き出したというわけではなさそうだ。
では、電動化に熱心なはずのフォルクスワーゲン・グループに属するベントレーが、この時期に敢えて純内燃機関エンジンを積むモデルを投入した理由はなんだったのか。ベントレーの取締役でセールスとマーケティングを担当するクリストフ・ジョージに質問を投げかけてみた。
「顧客が望んだからですよ」
ジョージは開口一番にそう答えた。
「私たちが2003年に初代コンチネンタルGTをリリースしたとき、多くのアナリストやジャーナリストは『2ドアの4座席モデルは理に適っていない』と指摘しましたが、実際は大成功を収めました。続いて2016年にラグジュアリークラス初のSUVであるベンテイガを発売したときも、彼らは『ラグジュアリーカーメーカーがSUVを出したらブランドイメージを毀損する』と主張しましたが、その後、各ラグジュアリーブランドがSUVをリリースして私たちに追随したことはご存知のとおりです」
では、なぜベントレーはアナリストやジャーナリストの意見に背きながら、多くの成功を収めることができたのか?
「その理由は、私たちが常に顧客の言葉に耳を傾けてきた点にあります。私たちは企業のマーケティング活動として市場の声を採り入れているほか、私自身も個人的に何人かの顧客を知っていて、彼らから直接、話を聞くことも少なくありません。そうしたなかで、新型ベンテイガ・スピードに純内燃エンジンを積むことを決めたのです」

実は、昨年来、フォルクスワーゲン・グループ内部では電動化戦略を見直す機運が高まっていて、EVの新規開発を一部先延ばしにしたり、内燃エンジンの改良に改めて取り組む動きが芽生えているという。新型ベンテイガ・スピードもそうした経緯から生まれたと考えるとわかりやすいが、ジョージによれば、その開発が始まったのは2年前だったので、グループの方針転換が明らかになるよりも前の段階。やはり、純内燃エンジンの採用は市場の声を反映したものと判断したほうが、しっくりくるようだ。
