写真提供:共同通信社

 国内だけで全就業者数の1割に迫る約550万人を抱える、巨大な自動車業界。そこには、まだわれわれが知らない奥深い歴史や魅力があふれ、ビジネスパーソンとして知っておきたい教養が詰まっている。本稿では『自動車ビジネス』(鈴木ケンイチ著/クロスメディア・パブリッシング)から内容の一部を抜粋・再編集。開発・生産体制、ブランディングなど、自動車ビジネスの多様な側面に着目しながら、業界の過去・現在・未来を見渡す。

 ここでは、トヨタが創業間もない頃から続けている高効率な生産手法「トヨタ生産方式」の強みをひもときながら、世界トップクラスの自動車メーカーとしての力の源泉を探る。

オーダーメイド化している クルマの生産ライン

自動車ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)

 クルマを生産する工場は、まるで鉄でできたジャングルのように見えます。

 林立する工作機械は生い茂る木であり、あいだに敷設されたベルトコンベアは川のよう。ベルトコンベアの川の上には作りかけのクルマが流れ、そのクルマに人間とロボットが取り付いて作業をしています。

 遠くから聞こえる溶接ロボットの作業音は、ジャングルに生息する動物の息吹のよう。

 さらに生産ラインの周りには、運搬ロボットが音楽を奏でながら、ゆっくりと部品を運んでいます。楽し気な音楽を耳にしながら生産ラインを眺めていると、テーマパークのジャングルクルーズを思い出してしまいます。

 そんなクルマの製造は、鉄板をカット&プレスして、ボディの部品を作るところから始まります。切り出し、打ち出された鉄の部品をプラモデルのように組み立てるのが溶接ロボットです。クルマのボディを作り上げるには2000か所もの溶接が必要です。

 溶接ロボットは、「バシッ」という溶接音と共に、正確かつ迅速にクルマのボディを作ってゆきます。できあがった中身のなにもないガランドウの鉄のクルマは、ホワイトボディと呼ばれます。また、並行して、蓋モノと呼ばれる、エンジン・フードやトランクフード、ドアなども作られています。

 できあがった鉄のボディは、やはりロボットの手で運ばれ、塗装工程に進みます。最初に、塗料の入ったプールに漬けての錆止めの下塗り。その後、中塗り、上塗りと進みます。これも実施するのはロボットです。正確で均一な作業は、ロボットが最も得意とするものです。