2023年10月に、旧社名の「凸版印刷」から「印刷」の文字を取って持株会社へ移行し、事業ポートフォリオの変革を進めるTOPPANホールディングス。「イノベーション創出の軸こそがTOPPANのDNA。イノベーション創出をさらに加速させるには、従業員一人一人のウェルビーイングが必要不可欠」と、同社執行役員で人事労政本部長兼人事部長の奥村英雄氏は言う。職能資格の制度疲労、役職定年後の処遇…山積する課題を前に、TOPPANが行った人事制度改革について聞いた。

※本稿は、Japan Innovation Review主催の「第3回 ウェルビーイング&エンゲージメントフォーラム」における「特別講演:「Well-being実現企業」に向けて/奥村英雄氏」(2025年3月に配信)をもとに制作しています。

紙への印刷事業は30%以下、多岐にわたる事業を展開

 凸版印刷(旧社名)というと、印刷中心の会社だと思われる傾向がありました。しかし、TOPPANに社名変更した現在では、印刷だけでなく、多岐にわたる事業を展開する会社としての認知が広がりつつあるように思います。

 実際、現在の事業セグメント比率に関しても、情報系の紙への印刷事業が占める割合は30%を切っており、情報コミュニケーション事業の中心はデジタルマーケティングなどのDXに移行しつつあります。その他にも、パッケージや建装材などの生活・産業事業、半導体やディスプレイなどのエレクトロニクス事業も展開しています。

 このように、社会の変化・ニーズに対応しながら価値創造を行っていくこと、つまり、「イノベーション創出」こそが、TOPPANのDNAです。
 そして、TOPPANグループのイノベーション創出の出発点は、人財であり、このイノベーションの創出をさらに加速させるためには、従業員一人一人のウェルビーイングが必要不可欠だと考えています。

労働時間や給与、高年齢社員の活用…さまざまな人事課題

 従業員一人一人のウェルビーイングを高めるには、土台となる人事制度が重要です。そこで、人事制度の改革に着手しました。

 検討にあたってはさまざまな課題に向き合う必要がありました。課題の1つは、労働時間で成果を測ることの限界です。特に、インプット(労働時間)とアウトプット(成果)が比例しない職務や職種の処遇をどうするべきか、という問題がありました。それと関連し、これまで全職種統一だった処遇をどうするべきか、職能制度で今後も対応できるのか、といったことも課題でした。

 さらに、20代後半から30代前半の給与・処遇を他企業と比較し、人財のリテンション(維持)や獲得に支障はないのか、といったことも検討する必要がありました。経営環境や社員の就労意識の変化に伴い、自律的なキャリア形成や多様性のある働き方への支援はこのままで大丈夫か、という点も課題でした。

 また、高年齢者雇用安定法の対応、および60歳以降の社員の活用施策は十分か、といったことも検討課題です。