2000年に出願された関連特許には、「サーバ」という言葉が頻出しています。これは、要するにデータを貯めておくとか、分析するとか、そういう話ですよね。

 このあたりでコマツはKomtraxの本当の価値に気づいて、研究開発と特許化に本腰をいれたんじゃないかな、という気がしています。

 レンタル建機向けが1999年、標準装備化が2001年ですから、レンタルで試してみてデータを集めて分析して、そこから新たなサービスが生み出せそうか味見をした。そこで生まれた課題をつぶして特許出願した。そして標準装備化した。こういう流れですね。

 2000年9月には 、「通信負荷」に関する特許も1件出ていて、こちらは2012年に分割出願されています。消費電力の次は、通信負荷が課題になったわけです。2001年7月には「移動体の通信装置」という名称で関連特許が出願されていますが、こちらも通信負荷の削減がテーマです。発明者は、水井さん、鎌田さん、あたりですね。

 彼らは恐らくこの時期、アイデア出しも含めて、通信負荷を低減する方法をかなり検討していたのでしょう。ちなみに僕がコマツに入社したのは、ちょうどこの時期(2002年)です。Komtrax開発チームがいろんな意味で盛り上がり始めたタイミングだったと思われます。

 そして、2003年以降は「データの活用」として、低燃費とか、セキュリティなど用途特許の出願が始まっています。2000年に出願された特許に「サーバ」というワードが出ていましたので、その流れですね。

 このときの出願は、Komtraxの活用に関わる特許ポートフォリオの形成を意図したものが中心ですね。通信に関わる課題じゃなくて、データ活用に、明らかに軸足を移しています。

 データの活用を含むビジネスモデル関連の特許は、出願だけで権利化されてないものが結構あります。9割ぐらいは権利化されていません(図83)。これはおそらく、当初から公開目的で出願したのでしょう。この辺も、知財部として明確な方針があって出願していたのかなと思います。

図83 ▶「警報」「燃費」「通信」を重点的に権利化

出典:TechnoProducer
※CsvAid(中央光学出版)を利用
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 また、通信に関する課題を扱ったものは6割ぐらいは権利化。燃費制御は7割5分、警報システムは8割が権利化されています。警報システムは、要するに異常のアラートですよね。最初の出願で「稼働時の異常」データを送信すると書いていますが、案の定、この辺はしっかり取っているわけです。

<連載ラインアップ>
第1回 「食品知財の黒船」花王はいかにして他社を寄せ付けない“鉄壁の特許網”を築いていったのか?
第2回 食品業界を震撼させた花王の「減塩醤油特許」、他社に大きな影響を与える緻密な特許戦略とは?
第3回 ヘルスケア・メディカルに特化した「Another Kao」なぜ花王はソリューション領域を目指すのか?
第4回 世界に先駆けてIoT分野を開拓したコマツ、建設機械の在り方を変えた特許戦略「Komtrax」とは?
■第5回 「盗難防止」が目的ではなかった? 特許出願から読み解ける、コマツ「Komtrax」発明の真の狙いとは?(本稿)
■第6回 部品の破損を事前に察知「Komtrax」の次の一手とコマツが20年かけて育てる「リマン事業」とは?(1月17日公開)

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