だとすれば、すべてのサービスは持続可能なものでなければならない。サービスを提供するたびに大赤字を出したり、スタッフに過大な負荷をかけるようなものであってはならない。それが「経営者目線」ということです。
たとえ総支配人でなくとも、部署のリーダーたちも必ずこの「目」を求められます。
一方で、リーダーの職を任されてみると、今度は全体的なビジネスの利益ばかりを見るようになる人もいます。「お客さまが喜ぶことはなにか?」を見失ってしまうのです。そうなれば、当然良いサービスは提供できません。
ホテルを訪れるお客さまは、「自分にとって行く価値のあるホテルか」をあらゆる観点からチェックしているものです。「お金を支払う人間」とだけ見られていると感じたり、気持ちの良いサービスが受けられないと判断されれば、すぐに離れていってしまいます。お客さまの心をつかめなければ、それもビジネスとしての終わりを意味します。
たとえ総支配人になって、接客の現場から離れたとしても、一人のお客さまをおもてなしする精神は、仕事の軸として持ち続けなくてはなりません。
「顧客目線」と「経営者目線」。ホテルという豪華客船を正しく安全に操縦するためには、この「2つの目線」をバランス良く持ち続けることがなによりも重要です。
この章では、「2つの目線」でどんなことを考えるべきなのか、実際にわたしが日頃どんな視点を持って働いているのかをお話ししていきたいと思います。
ユーザーになって「顧客目線」を培う
「顧客目線」に立って考える。
これはホテル業界のみならず、製造業からサービス業にいたるまで、さまざまな業界で語られていることばです。ユーザー目線に立って商品を考える。読者目線に立って本をつくる。ドライバー目線に立ってサービスエリアを設計する。とても大切なことです。
反対にあるのが、企業目線の発想です。企業の論理で、また、企業の都合で商品やサービスを考えてしまう。これではお客さまの望むものを提供することなどできません。わたしたちは常に「消費者としての自分」を忘れないようにしなければならないのです。
つくり手側の都合に流されず、どうすれば消費者としての自分を保つことができるのか。
それには実際に、一人の顧客として商品を買い、サービスを受けてみることが大切です。ホテル業界で言うなら、積極的に他社のホテルに泊まることがかなり重要になります。
わたしが顧客としてホテルに泊まるときに観察するポイントは2つあります。