「できる営業」として出世してきた責任者ほど必要性を感じづらいがゆえに障壁が高くなりがちな営業プロセス改革をどう進めるべきか。事業ポートフォリオが変わり、売るもの、売り方が変わる中でパナソニック コネクトCX推進部シニアマネージャーの左近次朗氏が取り組んだ営業プロセス改革の要諦とは──。
※本稿は、Japan Innovation Review主催の「第13回Marketing & Sales Innovation Forum」における「『勝ち続ける営業組織へ』パナソニック コネクトが取り組む営業プロセス改革/左近次朗氏」(2024年6月に配信)をもとに制作しています。
「プロダクト」から「ソリューション」ベースの提案に転換する
パナソニック コネクトは、パナソニックグループのBtoBソリューション事業の中核を担う企業として、サプライチェーン、公共サービス、生活インフラ、エンターテインメントの各領域で展開してきた。
近年、同社の子会社である、世界最大のサプライチェーン・ソフトウエア専門企業Blue Yonder(ブルーヨンダー)の事業をはじめとするソフトウエア事業を成長の軸として、プロダクトベースからソリューションベースへと事業ポートフォリオの改革に取り組んでいる。それに伴って、営業プロセスも改革する必要に迫られた。
左近氏は、旧来のプロダクトベースの営業プロセスを「競争からの効率化」「営業から顧客担当者へのアプローチ」「顧客ニーズを起点とした提案」とし、それらに対比して今後求められるソリューションベースの営業プロセスを「複雑化からの高度化」「営業組織全体からの複数のキーパーソンへのアプローチ」「経営視点で顧客の課題を捉えたプロアクティブ※な提案」と説明する(下図)。
プロダクトベースの営業は、いわば「点のアプローチ」であり、顧客の要望を受けてから進行するため後手に回りやすい。一方、ソリューションベースの営業は、組織全体で顧客側の職能を横断して行う「面のアプローチ」で、経営視点を持って複雑な課題解決を見越した高度な提案を行う必要がある。
担当者個人が必要性を感じづらいといったことから、営業部門の改革は難易度が高いとされるが、パナソニック コネクトはその障壁をどのように乗り越えたのだろうか。営業プロセス改革の全貌を語る左近氏の講演から、そのエッセンスをお届けする。
※プロアクティブ(proactive)は、「受け身の、後手の」を意味するリアクティブ(reactive)の反対語で、「先を見越した、先回りした、積極的な」といった意味を持つ
営業部門改革を困難にする4つの要素と対策
営業プロセス改革を困難にする要素は、4つに整理できます(下図)。1つ目は、営業責任者が、営業スキルを底上げするツールの必要性を感じていないことです。このマインドやプロセスを変えることが、大きなハードルになります。
2つ目は、プロセスを標準化・共有化せずとも営業の仕事は進む、ということです。営業担当は自身の営業手法にポリシーを持っており、また「自分の顧客は特別」という思いが強く、標準化・共有化に意識が向きません。
3つ目は、SFA(Sales Force Automation、営業支援システム)※などの営業を支援するシステム・ツールには、基幹システムとは違い「使わなくても業務が回る」という面があります。これを定着させるためには、現場にそのメリットを訴求していかなければなりません。
4つ目は、ITシステムの費用対効果が強く求められる点です。しかし、SFAは成果が出るまでに時間がかかり、ROI(投資利益率)の計上が困難です。「顧客への価値提供に必要なインフラである」という、経営層の理解を深めていく施策が必要になります。
※SFA(Sales Force Automation)は「営業支援システム」とも呼ばれるシステム。営業メンバーの活動、商談の進捗状況の可視化、売り上げの管理および予測などの機能を持つ