建設プロセスの生産性向上と最適化の実現に向けてDXを推進する大林組。施策の核心となるのが、3Dモデルを基に設計や施工、管理などを行うBIM(Building Information Modeling)の導入だ。同社では独自のBIMモデリングルール「SBS(Smart BIM Standard)」による「BIMワンモデル一貫利用」を推進している。BIMワンモデル一貫利用とは、意匠、設備、構造の各分野のデータをクラウド上で共有し、一元管理することで品質・生産性の向上を図るというものだ。その取り組みについて、BIM運用を推進するDX本部iPDセンター 制作第二部設備制作課 課長の池田麻紀子氏に話を聞いた。
既存のやり方を見直し、BIMの利用で業務の効率化を目指す
――大林組では2010年にBIM推進室を立ち上げ、業界の中でも比較的早くから3Dモデルを活用した新しい設計手法への移行を進めてきましたね。
池田麻紀子氏(以下敬称略) 今までの建設プロセスは、2Dの設計図を作成し、それを各担当者の頭の中で3Dに起こしながら実際の建物を建築するというものでした。しかし、立体である建築物を2次元で表現することは非効率であるうえ、図面を読み取る担当者同士の間で齟齬(そご)が生まれます。建築物を初めから3Dで設計することは、関係者間で情報を共有する上で、最も合理的な手法といえます。
特に私が携わっている建築設備分野は、建物の中の3次元の空間に、人を取り巻く「環境」を作りだす仕事です。機械室や電気室に設置した様々な機器から、天井裏やシャフトなどの空間に配置したダクトや配管などによってエネルギーを各部屋へ送り届け、建物全体の最適な環境づくりをするためには、建物の構造を3次元で複合的に捉える方が合理的であり、本来の仕事の在り方といえます。
また、意匠、構造、設備などそれぞれの部門で何か変更を加えるたびに関係者間での意思疎通が必要ですが、そのやりとりは本当に大変です。BIMを活用すれば、最新の情報をタイムリーに共有・確認できるため、こうした課題が解決されて齟齬も未然に防ぐことができます。
――ワンモデルによる一貫したBIMの利用に取り組む以前にはどのような課題があったのでしょうか。
池田 BIM導入の初期段階では、部門ごとにそれぞれのソフトを使う「マルチプラットフォーム」が採用されていました。そのため、部門間で情報共有する際には、担当者がいずれかの段階で作業を止め、データを変換して渡す必要がありました。
例えば建築モデルを設備ソフトに取り込むためには、中間ファイルに変換する必要があり、その変換に時間がかかったり、情報の欠落が生じたりすることも多く、最新ではないデータをやり取りすることで、不整合や手戻りの原因にもなっていました。
そこで、当社では2017年に「Revit(レビット)」をBIM標準ソフトとし、部門を越えて1つのモデルを共有するワンモデルでの運用に移行することにしました。関係者間でモデルを共有するには、共通のルールが必要となります。ですから当社では、設計から施工まで一貫して活用できるBIMの標準ルール「SBS(Smart BIM Standard)」を定め、全社で運用するようにしました。これにより各部門が作成した情報をリアルタイムに編集でき、常に最新の正しい情報を関係者全員で共有できるようになったのです。
――BIMの推進についてはどのような体制で取り組まれているのでしょうか。
池田 現在、BIMの推進は本社のiPDセンターが主体となって取り組んでいます。
2010年よりも前は、研究開発チームでBIMの活用を検討していました。当社は昔から「技術の大林組」と言われるほど、技術開発が盛んに行われてきました。技術開発では、各部門から提案された題材に対して部門横断のチームを組成し、1~2年ほどかけて研究開発に取り組みます。様々な部門間の情報を活用するBIMの検討には、この部門横断のチームが必要でした。
そして、2010年に会社としてBIM活用を推進する方針のもと「BIM推進室」が立ち上げられたときにも、意匠設計・構造設計・設備設計・施工管理などさまざまな部門からメンバーが集められました。さらに現在は、ICT系の専門部署やデジタル変革プロジェクトチームと統合、「DX本部」として、BIMを生産基盤としたデジタルによる業務変革を目指して取り組んでいます。