DXというと、とかく目の前の業務をいかに効率化するかに目が向けられ、デジタル化自体が目的になりがちだ。だが伊藤忠商事では「地に足をつけたDX」として、あくまでも「本来何を目指すべきか」を重視しているという。企業理念である「買い手よし」「世間よし」「売り手よし」の「三方よし」に則ったDXをいかに実現するのか。准執行役員で、DXを推進するIT・デジタル戦略部の部長を務める、浦上 善一郎氏に話を聞いた。
「三方よし」を支える5つのDX
――伊藤忠商事は、近江商人にルーツを持つ「三方よし」の経営を企業理念としています。この「買い手よし」「世間よし」「売り手よし」の精神を、グループ全体で、どのようにDXに活用していくのでしょうか。
浦上善一郎氏(以下、敬称略) 基本は3つのDXです。まず「買い手よし」として、マーケットインによる「顧客ニーズ発掘のDX」を進め、多様な領域で新たな事業モデルを創出します。「世間よし」の「社会貢献の事業DX」では脱炭素社会の本格化を見据えて、持続的経済成長に向けたデジタル活用を推進。「売り手よし」は「プロセス改善のDX」です。川上から川下までのバリューチェーンの最適化と効率化を伸展することで、既存事業の収益向上を目指します。
この3つを支えるのが2つのDXです。まず「人材育成と活躍のDX」では、商人の知識と経験をITによって活性化するDX教育を実施し、全社レベルでデジタル人材のレベルを底上げします。次いでデータドリブンによる「経営見える化のDX」では、顧客・事業・市場データを基にした意思決定により、各事業の経営力を強化します。
以上のDXを、「三方よしのDX」実現を支える5つのDXとして定義しています。