サントリー食品インターナショナル(以下、サントリー)は、社員の健康維持を経営課題と捉える企業が増える中、法人向け健康経営サービス「SUNTORY+(サントリープラス)」を展開している。ゲーミフィケーションを取り入れたアプリなどで健康習慣化をサポートするサービスで、導入企業は約1000社、半年以上継続するユーザーは65%に達するという。サントリープラスを立ち上げた同社イノベーション開発事業部の赤間康弘氏に、ビジネスモデルとアプリの特色について話を聞いた。
高齢化する社員に「散歩」を提案
──2020年7月にローンチした「サントリープラス」は、ゲーミフィケーションの要素をふんだんに取り入れたBtoBtoC向けヘルスケアアプリです。導入企業からは、どんな点が評価されているのでしょうか。
赤間康弘氏(以下敬称略) 他のヘルスケアアプリとは異なり「ついついやってしまう」という気楽さと、誰でも気軽に「達成感」を醸成できているところだと思います。
アプリで提案する約60の健康アクションは「朝起きて水を一杯飲む」「散歩をする」「肩甲骨を広げる」など、その場ですぐできるものでありながら、「コレステロール値を下げる」「体脂肪対策に効果がある」といった医学的裏付けのあるものばかりです。さらに、これらの行動を実施するとアプリから「よくできました」「その調子ですね」とアニメーション演出と共に褒めてもらえる他、1週間に3日間健康アクションを継続すると、抽選クジで自動販売機の飲料が無料でもらえるクーポンやポイントが発行されるなど、長くアプリを利用してもらえる仕掛けを用意しています。
世の中に健康促進アプリはたくさんありますが、その多くが「体重が何キロ減りました」「今週は減塩何グラム達成しました」など「結果」だけにフォーカスしすぎているきらいがあります。すでにストイックに筋トレや食事制限をしていて健康に気をつけているような人にとってはそれでもいいのでしょうが、これから健康に気をつけようとしている大多数の方にとっては荷が重いのではないでしょうか。
それよりも「今日も散歩できた」「今日も朝一番に水を飲めた」など、日常の小さな行動を目的にすると、結果的にこれらの行動が習慣化し、健康意識が高まり、他の健康行動も取り入れるなど、最終的に健康につながっていくのです。
実際、サントリープラスはユーザーの1カ月後のアプリ利用継続率が84%、半年経っても65%以上がアプリを使い続けています。また、導入企業の約半数の社員がダウンロードし、ユーザーの88%が健康行動の増加を実感しているなど、かなりの成果を収めています。一般的なヘルスケアアプリの利用継続率(1カ月後)が15%に満たない数字であることを考えても、ユーザーの皆さまに楽しく日々ご活用いただけているのではと自負しています。
──サントリーの事業はエンドユーザー向けの食品・飲料の製造・販売が中心だと思いますが、なぜBtoBのヘルスケアサービスを開発したのでしょうか。
赤間 「健康経営」が広がる背景には大きな社会課題がある、と気づいたからです。全国の健康保険組合の赤字額が毎年増加して社会問題化していることに加え、特に大企業では従業員の高齢化が深刻です。将来的に50代の社員がボリュームゾーンになると言われており、医療費がさらに逼迫することが予想されますし、人手不足の中で企業はいかにその世代に健康に働いてもらうかを考える必要があります。
つまり、企業にとって従業員の健康維持・促進をサポートすることが大きな経営課題の1つとなっており、人事担当者はどのような施策を打つべきか日々頭を悩ませています。
もちろん、サービス開発を手掛けるIT企業も健康経営市場に目をつけています。ただ、サービスを利用する企業にとっての課題は、①金銭的コストがかかること、②一部の健康意識が高い従業員しかサービスを使ってくれないことです。