日本総合研究所 理事長の翁百合氏(撮影:宮崎訓幸)

「失われた30年」とも言われる経済成長の停滞に苦しんできた日本。ここから長期的な企業価値向上に転じるにはどのような取り組みが必要なのか。日本総合研究所 理事長の翁百合氏は、企業における意思決定の担い手としての取締役の役割を重視する。さらに人への投資、すなわち人的資本経営が成功の鍵になると指摘する。

働き方改革などに対応できない企業は採用でも大きな影響が

——「失われた30年」と言われるように、この30年間、日本経済は膠着状態が続いていました。一方で足元のコロナ禍は、日本の企業に変革を起こす転機になったようにも思えます。

翁 百合/日本総合研究所 理事長

1984年日本銀行入行。1992年より日本総合研究所、2018年4月に理事長就任。内閣官房「全世代型社会保障検討会議」構成員、内閣府「選択する未来2.0」懇談会座長などを歴任。内閣官房「新しい資本主義実現会議」構成員。

翁百合氏(以下敬称略) 確かにそうです。特にコロナ禍で起きた大きな変化は、人々の働き方です。リモートワークがかなり進みました(※)。また、ワークライフバランスなどに関する意識も高まってきました。毎日通勤して朝9時に仕事を始め夜帰るのが当たり前だと思っていた生活を見直すきっかけになりました。もちろん、エッセンシャルワーカー(社会機能を支える仕事)の方はなかなか難しい面もありますが、多くの人たちがさまざまな働き方があることを考える大きな機会になりました。また、そのような働き方を提供できる企業に魅力を感じる人が増えているのも明らかです。

※2019年4月1日から「働き方改革関連法」が施行されたが、コロナ禍によりリモートワークを導入する企業が一気に増えた

 DX(デジタルトランスフォーメーション)が進んだことも大きいですね。飲食店でも、インターネットを活用して注文を受けデリバリーを行ったり、他の業界でもEコマースを入れたりと、DXがかなり進みました。日本はなかなか変われないと言われますが、明治維新や第二次世界大戦など、大きな出来事が起きると大きく変わります。コロナ禍は大変残念なことではありましたが、これを機会として生かしていくべきだと思います。

——コロナ禍をきっかけに日本企業におけるダイバーシティー(多様性)は進んだのでしょうか。

 ダイバーシティーの指数が上がったといったことは残念ながら起きていません。ただし、女性が働きやすい環境や、家庭との両立をしやすい環境という点では少し進展があったと感じます。

 例えばリモートワークが普及して、家事や育児との両立をする手段が増えたといったことです。また、内閣府のアンケートなどを見ると、男性の育児参加や家事参加が増えています。政府は2023年4月に従業員1000人超の企業に年1回、男性の育休取得率の公表を義務付け、2024年には従業員300人超の企業に広げる案も検討されています。企業の取り組みも始まっており、環境も変わりつつあります。

——そのような変化を捉え対応を進める企業と旧態依然とした企業では、これから差が出てきそうです。採用活動や社員の満足度にも影響がありますか。

 もちろんです。若い世代の中には、給料に加えてそのような企業の姿勢を重視する人も増えています。最近では大手企業の中にも働く場所を自分で選べるといった制度を導入しているところも出てきました。本社機能を地方に移転した企業もあります。当社にも、地方に住んで仕事をしている社員がいます。

 コロナ禍以降、リモート化を進める企業も増えています。OJT(職場内訓練)ができないといったデメリットもありますが、それ以上に働き方改革や成長機会が共に提供されていれば好ましいと思います。