近年、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の設立に乗り出す企業が増えている。自社の中長期な発展を見据えたとき、新たな挑戦へ投資することが欠かせないということだろう。そんな中、日本の代表的ベンチャーキャピタルであるJAFCOが初めて、CVCにフォーカスしたイベント「JAFCO CVC Summit 2023」を開催。セッション1のパネルディスカッション「ベンチャー投資への挑戦 CVC立ち上げの背景」では、阪急阪神HDの中本一志氏、住友商事の竹内伸幸氏、モデレータとして博報堂DYベンチャーズの武田紘典氏が登壇し、CVCの目的や機能、運営体制・人材育成の在り方について語った。
阪急阪神HDと住友商事がCVCを設立した背景にあったものは
近年、日本で拡大しているCVCの目的は、「新規事業の創出」「既存事業の強化」さらには「将来の競合になり得るベンチャーの取り込み」など多岐にわたる。
セッションの冒頭、阪急阪神ホールディングスの中本一志氏、住友商事の竹内伸幸氏が自社のCVC設立の経緯と背景を語った。
阪急阪神HDは、2022年には「深める沿線 拡げるフィールド」というスローガンのもと2040年に向けた長期ビジョンを発表し、4つの戦略を掲げている。その中でCVCは「外部パートナーの活力、連携強化」を担い、下支えするという一面を持つ。また、グループ横断でDXプロジェクトが推進されていて、CVCの主要な投資領域の1つとなっている。
しかし、「部門としての主眼はあくまで、先々を見据えて新しい事業を開拓することにあります」と中本氏は語る。
「当社では2018年から社内で新規事業提案制度を始めて、内部から新規事業を創出するアプローチを採ってきました。しかし、もっと幅広く世の中の動きや情報を吸収し、社外と協業して新しいものをつくるアプローチも必要だということで、2021年4月にCVCを発足させました。既存事業の競争力強化、新たな事業領域の開発・促進を目指して、鋭意、投資活動をしています」(中本氏)
運営体制については後述するが、SBIインベストメントとの二人組合というかたちで、30億円のファンドを組成している。
一方、住友商事のCVC設立は1998年にさかのぼる。シリコンバレーで立ち上げたCVCは通信・IT、メディア領域に投資し、米国で発掘した商材を戦略IT企業であるSCSKを通じて日本にディストリビューションするというビジネスモデルだった。現在は、米国、欧州、イスラエル、香港、日本のグローバル5極で展開し、アセットの規模は250億円、ポートフォリオは約100社に上る。
投資分野は、DX、次世代エネルギー、社会インフラ、リテイルコンシューマー、ヘルスケア、農業など幅広く、住友商事グループの成長戦略に応じて設定している。
竹内氏は「CVC設立は、外部環境と内部環境の双方からの要請に応じたもの」と語る。「外部環境として、スタートアップの勃興、オープンイノベーションの波といった、向き合わざるを得ない変化があります。内部環境では、事業ポートフォリオのシフトです。特にここ数年は、当社で大きな新規事業が出ていない状況があり、経営の観点からも新規事業開発のツールとしてCVCが必須です」(竹内氏)