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 脱炭素社会に向け、化石燃料から再生可能エネルギーなどへと燃料転換が進み、これまで発電や素材製造を担ってきた日本の重機械・産業機械メーカーは、バリューチェーンの変革を迫られている。海外企業がM&Aを駆使し、思い切った事業転換を進めるなか、日本企業は強みをどう生かし、環境変化に適応すればよいか。

 コンサルティング大手A.T. カーニーが上梓した『A.T. カーニー 業界別 経営アジェンダ 2024』(A.T. カーニー編/日経BP、日本経済新聞出版本部)において「重機械・産業機械」の章を執筆した深川寛也氏が解説する。

大きな変革期に突入した重機・産機ビジネス

 重機・産業機械(産機)といっても、恐らく何がしかの形で関わったことのある方以外は、容易にイメージできないと思うので、まず重機・産業機械とは何か、ということから簡単に説明しよう。

 重機は、土木現場や建設現場で使用される大型の機械で、人の力で掘ったり、均したりするのが困難な作業に用いられる。たとえば地面を掘ったり、平らにしたりするのに用いられるショベルカー、ブルドーザー、ホイールローダーや、鉄骨などを吊り上げたり、積み込んだり、運んだりするのに用いられるクレーン、フォークリフト、ダンプカーなどが該当する。

 重機の中で特に建設現場で用いられている機械のことを「建設機械」と称することもあるが、基本的に建設機械は重機の一部と考えてよいだろう。

 次に産業機械の定義だが、日本産業機械工業会によると、「様々な産業や社会の現場において、人の作業を補助、代行し、人にとって苦痛、困難、不可能な作業や環境を克服するもの」と記されている。具体的には、鉱山機械、化学機械、ボイラー・原動機、環境装置、タンク、プラスティック機械、風水力機械、運搬機械、動力伝動装置、製鉄機械、業務用洗濯機などが、これに該当する。

 これら重機・産機ビジネスは今、非常に大きな変革期に入っている。

 変化のあるところには、必ず新しいニーズが生まれる。つまり大きなビジネスチャンスが眼前にぶら下がっている。詳しくは後述するが、重機や産機を動かしている燃料そのものが、世界的な脱炭素の流れによって、従来の化石燃料から再生可能エネルギーへと転換しようとしている。

 もし使用する燃料が変われば、機器の仕様や運用プロセスが変わってくる。バリューチェーンも見直さなければならなくなる。そのトレンドに乗れるかどうかによって、重機・産機業界では今後10年、20年、30年という単位で、会社の命運が左右されることになるだろう。重機・産機ビジネスは自動車業界と同様の課題に直面しているということだ。

 これまで、日本の重機・産機メーカーが造っていた製品は、化石燃料を燃やして取り出したエネルギーを使って稼働させるもので占められてきた。

 たとえば火力発電所は主に石炭、一部ではLNG(液化天然ガス)を用い、それらを燃やすことで蒸気を発生させて発電しているし、バスやトラック、船舶、航空機などの移動体に用いられているエンジンは、大半が化石燃料を燃やして動力を得ている。工事現場で用いられている重機もそうだ。

 脱炭素化の要請は、重機・産機業界にとっても決して無縁ではない。社会から、製造している機器の脱炭素化が求められるだけでなく、機器を提供している顧客からの要請もある。分かりやすいところで言うと、運送会社はトラック、海運会社は船、航空会社は飛行機といった移動体に用いられている動力の脱炭素化を、社会から求められているため、より低炭素の動力をつくるよう、重機・産機メーカーに要請してくる。