今、世界中の企業が取り組むDX。日本でも、新旧を問わず、多くの企業がDXと向き合うが、技術の導入や業務改善どまりのことも少なくない。産業、業種の垣根を超え、DXでビジネスモデルや組織全体を変革するカギはどこにあるのか。当連載は、国内外のDXの先進事例が多数収録された『世界のDXはどこまで進んでいるか』(雨宮 寛二著/新潮社)より、一部を抜粋・再編集。2030年代を見据えた「DX変革」の最前線をお届けする。

 第1回目は、GAFAMをはじめとする企業による創造的破壊、それらへの対抗手段、そして1.0から3.0へと移り変わるデジタル化の動きについて、ユニクロほか先進企業の事例を引き合いに出しながら解説する。

<連載ラインアップ>
■第1回 GAFAM、ウーバー、ネットフリックス、ユニクロが実現するデジタル変革とは?(本稿)
第2回 EVの完全受注生産を実現したテスラを貫く「DXの神髄」とは?
第3回 AIと最先端テクノロジーでタクシー市場を変革したウーバーの革新性
第4回 IoTとAIをフル活用、店舗を急速アップデートするウォルマートのデジタル変革


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1.デジタルによる企業変革の潮流

 現代ほど、企業変革が求められている時代はないと言えます。なぜなら、デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉に象徴されるように、デジタルにより企業経営に決定的な変化を起こすことで価値を生み出す戦略やビジネスモデル、さらには業界の仕組みを再構築するという動きがひとつの潮流として生まれているからです。

 このDXの流れは、主に既存企業への変革の提言として捉えることができます。なぜなら、スタートアップ(新興企業)にとって、起業はデジタルテクノロジーの活用を伴うものであることが常識とされてきたからです。それはGAFAMや、近年では、ウーバーやエアビーアンドビーといったデジタルネイティブの生い立ちを考えれば明白です。

 GAFAMの中でも、グーグルやアップル、アマゾンなどは、コア・コンピタンス(自社の中核となる能力)を本業以外にも発揮して事業領域を拡大してきたことから、既存企業が業界のリーダーの地位を奪われ、産業や市場によってはそうした企業を破壊に至らしめる状況に陥っています。

 このように、デジタル化が進む現代においては、産業や業種の垣根を越えて、さまざまな企業や組織体がデジタルテクノロジーを駆使して新たな分野に参入してきます。これを創造的破壊につながるという側面で捉えれば、経済価値を生み出すという視座から肯定できますが、事業者側からすれば自社の経営に関わる脅威となります。こうした状況を打破するために事業者が採るべき選択肢は、次の2つに集約されます。

 1つ目の選択肢は、既存事業でデジタル化を進め、スケールアウト(事業の拡大や成長)につなげることです。デジタル化による改善などにより効率性や生産性を向上させることも大事ですが、デジタル化によりビジネスモデルを変革することができれば収益性を劇的に高めることが可能となります。

 2つ目は、デジタルテクノロジーを取り入れて新規事業を孵化して成長させ新たなコア・コンピタンスを構築することです。これは、既存事業を守るだけでは企業の成長が見込めない新たな成長戦略の一環として位置づけられます。

 どちらの選択肢を進めるとしても大事なことは、あるべき姿の実現に向けて、事業そのものをデジタルの力でコントロールして全体最適化を図ることができるか否かであります。たとえば、ネットフリックスのあるべき姿は、映画というコンテンツと顧客の視聴経験を結びつけることでした。DVD郵送によるかつてのビジネスモデルでは、ソフトウェアでコントロールできる事業プロセスは一部に限られ、コンテンツと顧客の視聴経験を直接結びつけることはできませんでした。

 しかし、コンテンツの保存やストリーミング配信を基盤にしたクラウドコンピューティング(クラウド)によるビジネスモデルの導入により、あらゆるプロセスがソフトウェアで制御できるようになり、シネマッチによるコンテンツの最適化を顧客の視聴経験から取り込むことが可能となりました。

 こうして構築されたシステムは、パソコン(PC)だけでなくあらゆるデバイス(機器)に取り入れられ、グローバルレベルで制御やアップデートが可能になったことから、事業全体をデジタルの力でコントロールするに至りました。

 このように、ネットフリックスは自社のあるべき姿に向けて、デジタルテクノロジーを導入して全体最適化を図ることにより、スケールアウトすることに成功したのです。