日本生活協同組合連合会 事業企画・デジタル推進本部 次世代戦略企画室 室長の炭谷昇氏。(撮影:宮崎訓幸)

 宅配やスーパー事業を手掛ける全国各地のコープ(生協)が加盟する日本生活協同組合連合会(以下、日本生協連)が、DX推進に乗り出している。最も重視するのは「その取り組みが組合員のためになるか」。自分たちのDXを「だんだんトランスフォーメーション」と訳し、取り組みを進めるのはなぜか、幅広い年齢層の組合員がいる中で相反するニーズにどう応えるのか、事業企画・デジタル推進本部の炭谷昇氏に聞いた。

なぜ「だんだんトランスフォーメーション」なのか

──生協のDXを進める上で一番大切にしていることは何でしょうか。

炭谷 昇/日本生活協同組合連合会 事業企画・デジタル推進本部 次世代戦略企画室 室長

現在、宅配事業改革・DX推進などに従事。ラストワンマイル、商品情報、広報・学習活動などの課題を担当。宅配センター(配達・営業)、PB商品事業(物流・営業・商品開発・開発管理・生産管理・マーケティング等)、政策企画(ビジョン・中期方針)、組合員活動などを経て、現職。

炭谷昇氏(以下敬称略) 生協は生活協同組合という名前の通り、「消費者一人一人の出資金によって成り立つ協同組合」である点が最大の特徴です。何か新しいことに取り組む際も組合員の財産を使って行うことになります。だから、「何のためにやるのか」「本当に組合員のためになるのか」という点は一番意識しています。

 また、いきなり大きいことを目指すのではなく、小さいことを積み重ねていきたいと考えています。成功も失敗も一つ一つ積み上げていきたい。そこで、開発の手法としてアジャイル(注)を採用しています。

 日本生協連には「『あったらいいな』は危ない」という考えが内部にあります。実際に仮説を立てて開発を始めてみると「これだけ時間や手間をかけるほど必要な機能だろうか?」という場合がよくあるのです。また、一口に失敗といっても「改善すればものになりそう」「やってみたら違った」「時期尚早」などいろいろなケースがあるので、アジャイルで検証しながら学びを蓄積しています。

(注)上流工程から下流工程に向けて順番に開発を進めていくのではなく、計画からテストまでを短いタームで繰り返しながら開発していく方法。

──DX-CO・OPプロジェクトでは、DXを「だんだんトランスフォーメーション」と訳しているそうですね。どんな意味を込めているのでしょうか。

炭谷 生協のDXを進める目的は「デジタルを活用した『あたらしいくらし』の実現」です。外部環境が変わり、生協の持つ課題も変化する中、デジタル化ですぐに組合員のくらしに貢献することは難しい。その代わりにたくさんある「くらし」に関わるもの一つ一つに丁寧に向き合い、組合員に便利で楽しくなる仕組みを提供していきたい、との思いを「だんだん」と表現しています。