今月より4回にわたり「CX(コーポレートトランスフォーメーション)」について、述べていこう。
本連載のタイトルを「なぜ、CXが進まない?ものづくりDXを阻む企業に巣くう根深い問題」としたのは、さまざまな企業と取り組みを進めていく上で、その根深い問題に何度もぶつかってきたからである。
改めて、「CX」を一言で言うと、
「企業を根本からつくり変え、新しい企業体として生まれ変わること」と定義したい。
この「根本から」という点が非常に重要で、組織はもとより、トップの思考や意思決定スタイル、企業としてのビジョンやパーパスもいったんゼロベースにし、一からつくり変える。
伝統や慣例を重んじる日本企業にとって、これが非常に困難なことであることは、重々理解している。
しかし、デジタル化により、世界は刻一刻と変化、成長を続けている。残念ながら、一度開いたデジタル化の扉はもう元には戻らない。進むしかないのだ。「変わらない」ことは、「退化」であり、「退化」は「衰退」と同義だ。
あえて厳しい言葉でいうと、国内の製造業は、かなり危機的状況にあると思っている。この先10年間で破綻してしまう企業は相当数に上るのではないかと推察する。
そう思うと、一刻も早く改革に着手し、DXを進め、この先の未来も成長し続けられる企業体へ生まれ変わっていただきたいと切に願っている。読者の皆さまも、同様に感じてくれていることを、信じたい。
しかし、実際にデジタル化、DXを進めようとすると、その壁の厚さに、困憊するのだ。
なぜ、「CX」が必要なのか? なぜ、あなたの会社は変わらなければならないのか?
そこで、今回は今、日本企業が置かれている状況、そしてその状況が続くと何が問題なのかについて、掘り下げていこうと思う。
少々、耳が痛い論調になることをお許しいただきたい。
相変わらず、「目的」が分からない
いよいよ、2023年10月1日より、インボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートする。現在、慌てて電子帳簿に移行している企業も少なくない。それをきっかけに「いよいよ、わが社もDXを推進しよう!」と、ようやくペーパーレス化や、データ構築に着手している企業も多い。
しかし、得てしてこうした「目の前の課題に対処する」流れで、デジタルを導入すると、後々、大きな壁にぶつかることが多い。
つまり、「目の前の業務をデジタルによって簡略化する」ことが、目的にすり替わってしまうのだ。「ようやく、電子帳簿に移行しました!」は、あくまで「帳簿を電子化した」に過ぎず(デジタイゼーションの状態)、残念ながらここで止まってしまうケースがまだまだ多いのが実情だ。
2023年度「DX白書」(独立行政法人情報処理推進機構)には、タイトルがこう記してある。
「進み始めた『デジタル』。進まない『トランスフォーメーション』」
必要に迫られ、「デジタル」は導入したものの、それによる「変革」はまだ起きていない。これが今の日本企業の実態である。それは「デジタルによって、どんな変革を起こしたいのか?」「どんな新しい価値を創造したいのか?」といった、その目的やゴールが、まだまだ明確になっていないからだ。
皆さまの企業ではどうだろうか?
デジタル化、さらにDXには、時間も労力もコストもかかる。読者の皆さまも、ひょっとしたら、通常業務とは別に「電子化」「ペーパーレス化」「データ構築」等、DX推進に向けた膨大なタスクを担っている、ただ中かもしれない。
その際、恐らく、皆さまの気持ちを支えているのは、「その先の未来」だ。今は大変かもしれないが、移行期を超えた先には、新しく生まれ変わった未来の会社、未来の職場、未来の働き方が待っている。そう思えばこそ、今、その業務にも向き合えるというもの。しかし、残念ながら、「その先の未来」が見えない。いや、見せてもらえない。
「どうして、こんなに残業してまで、データをとるんですかね?」
「さぁ? 上の命令だからね」
これではやる気スイッチも入りようがない。しかし、これが多くの企業、職場で起こっている現実だ。
改めて、トップの皆さま、トップに進言できる立場の皆さまに問いたい。
あなたの会社は、なんのために「DX」を行うのだろう? 「DX」の先にどんな会社の姿、社会の姿、未来の姿が見えているのだろう?
もう一度、ここを明確にするための時間を割いてもらえないだろうか。生真面目で、誠実な貴社の従業員のためにも。あなたの会社が、生き残るためにも。