左からスレッドアップのアンソニー・マリノ氏、eベイのマリ・コレラ氏、アーバン・アウトフィッターズのデイヴ・へイン氏

 サステナビリティ戦略は企業の大小を問わず、企業経営に欠かせない。しかし、SDGs達成のために代替エネルギーの購入で二酸化炭素排出量をオフセットするだけでは、米国の消費者は納得しない。米国では循環経済の概念に基づき、経営自体がサステナブルな事業モデルに転換することが求められる。そうした中、ファッション業界ではリセール(再販)事業とレンタル事業が循環型ビジネスとして注目されているが、なかなか収益化できていないのが現状だ。

 今年の「ショップトーク」(小売業界のカンファレンス)では「リセール、アップサイクル製品、循環経済」と「収益性とサステナビリティを改善する新たな戦術と事業モデル」のセッションで実務担当責任者たちが現状を報告した。

〔スレッドアップ〕利益化に向けて製品価値の高い中古品へシフト

 全米最大の中古ファッションリセール(再販)マーケットプレースのスレッドアップは2009年にボストンで開業し2021年3月にナスダックに上場、2022年度年商は2億8838万ドルに達している。

 同社はB2CとB2Bの2つの柱を持ち、B2C事業では委託型マーケットプレース、B2B事業ではブランド企業に再販プラットフォームを提供している。

 マーケットプレースではセラーに中古商品回収専用郵送袋を送り、回収後は検品・洗濯・商品登録し、Eコマースで販売・出荷する。価格決定やマーケティングも同社がAIやデータサイエンスを利用して行う。

 一方、B2B事業ではギャップ、J.クルー、アメリカンイーグル、トミーヒルフィガーなど大手ファッションブランドが自社展開するリセール事業のプラットフォーム開発とオペレーションを支援している。

 同社プレジデントのアンソニー・マリノ氏は「需要はコンスタントで、年齢が若いほど自然にリセール市場に入ってきている。当社の顧客も50~60%が若い世代で、ティックトックや友人からの口コミで広がっている。バイヤーは価格が安いからリセールで買うのではなく、(環境に良い等の理由で)あえて選んで中古品を買っている」と説明した。

 しかし、「(ギャップやJ.クルーなどの)ブランドからのリセール市場参入も増えていてマーケットプレース上で売るのに時間がかかるようになり、中古品を受け取って検品・洗濯し、準備して販売するまで12週間かかっていた時もあったが、現在はキャパシティを拡大し、6、7週間に短縮している」と成長の一方でリバースロジスティクス業務の難しさに言及した。

 同社に限らずリセール事業ではリバースロジスティクスのコストが大きく収益化の壁となっている。図表の通り、同社も上場以降、売り上げは拡大するが赤字幅も広がっている。

 同社は売上成長加速のため、価値の低い中古品は売値を低く設定しセラーに利益があまり残らない仕組みを採用している点が特徴だ。

 これは「消費者が最初からクオリティの高いものを買えば、それを再販する時にもそのバリューを反映した利益が取れ、早く換金もできる」ことの啓蒙の一環として行われている。

 リセール事業は消費者にも環境にもウィンウィンのようだが、これを支えるリバースロジスティクスのコストを吸収し利益を生むビジネスモデルでなければサステナブルではない。

 そして、この課題への答えには、後述の通り、リセール専業のスレッドアップ社よりも後発企業が一歩近づいているようだ。