写真フィルムからデジタルカメラへ。事業そのものがデジタル化された富士フイルムで、ICTを活用した経営変革を推進していた板橋祐一氏は、その手腕を買われ、ロート製薬のDX推進を2021年から担っている。ロート製薬流のデジタル活用、そして板橋氏がDX推進で大事だと考える組織づくりについて聞いた。

ロート製薬に来て、DXに対する考え方が変わった

――2021年にロート製薬にデジタル戦略担当執行役員として入社、22年CIOに就任されました。当時のロート製薬のDXをどのようにご覧になりましたか。

板橋 祐一/ロート製薬 執行役員 CIO 基幹情報システム部 DXオフィサー

1985年にエンジニアとして富士フイルムに入社。R&Dにてマイクロカプセルを使った画期的カラープリント技術の開発に携わる。R&Dから事業部に異動し、写真のデジタル化に伴うデジタルカメラやプリンターの商品化およびマーケティング、事業変革に取り組み、チェキ事業の再生を統括する。デジタルマーケティング戦略室長としてICTを活用した経営変革に貢献。 2021年ロート製薬入社、執行役員CIO、DX推進オフィサーとして変革を推進している。

板橋祐一氏(以下敬省略) 私は以前、富士フイルムに在籍していました。富士フイルムは写真フィルムの製造からスタートしていますが、写真フィルムからデジタルカメラなどに移行することで、企業として提供する価値そのものがデジタル化するという経験をしています。しかし、ロート製薬が参入しているアイケアや、スキンケアなどの業界が提供する価値は、まだデジタル化されていません。スマホを見ておなかの痛みが和らぐわけでもないし、VRゴーグルを着用したら肌がきれいになるわけでもなく、本質的な価値はまだデジタル化されていないんですね。

 富士フイルムでICTを活用した経営変革に取り組んできた当時の私は、ビジネスモデルを変える、あるいはデジタルを使って新しいビジネスを展開するのがDXだと思っている節がありました。ですが、ロート製薬の場合は少し違うのだと考え方を改めたのです。

――どのように考えを改めたのでしょうか。

板橋 企業が提供している本質的な価値を、デジタル化するのかしないのかという視点を持つことは、デジタル化を考えるときにとても重要です。デジタル化しそうな業界にいるなら一目散に推進すべきですが、ロート製薬の場合は価値をデジタル化することの意義は顕在化されていません。

 これから価値がデジタル化する機会が来るかもしれませんし、今後もデジタル化されないままかもしれません。業界の動向に目配りはしながらも、企業としてデジタルそのものを使ってお客さまに価値を提供するのではなく、デジタルを使ってわれわれの働き方を変えることで業務の効率化や精度を上げ、さらに価値ある商品をつくることがロート製薬にとってのデジタル化だと捉え直すことから始めて今に至ります。