「iPhoneシティー」の混乱がもたらした影響

 従業員20万人超を抱える鴻海の鄭州工場では、従業員が宿舎と工場間のみを移動する「クローズドループ」操業を行うという条件で営業が許可されている。

 同工場では22年10月下旬に新型コロナウイルスの感染者が確認され、外出を禁止された従業員らが集団で脱出する騒動が起きた。工場では人員補充のために新人工員を募集した。だが、手当の支給実態が事前の説明と異なるとして新人工員らが不満を募らせた。コロナ検査で陽性となった同僚と同じ宿舎を使用することについても不満を訴え、22年11月22~23日に彼らが大規模な抗議行動を起こした。

 鴻海は事態を収拾するため、仕事を辞めて帰郷する従業員に1万元(約19万4000円)を支払うことを提案した。多くがこれを受け入れ、22年11月25日までに新人工員2万人以上が1万元を受け取って工場を去った。ブルームバーグによると、鴻海はその後、22年12月から23年1月まで工場に残るフルタイム従業員を対象に月1800米ドル(約25万円)の手当を支給することを約束した。

 新人工員の離職による生産への影響は、経験と技能を持つ既存従業員に対して取られた隔離措置の影響に比べて小さいという。だが、「iPhoneシティー」として知られる巨大工場における今回の騒動は、アップルの中国巨大サプライチェーン(供給網)が抱えるリスクをあらためて浮き彫りにしたと、ブルームバーグは報じている。

インドやベトナムなど生産拠点の多様化加速へ

 一方、鴻海は地方政府の力を借りて積極的に追加募集を行っている。中国最大の民間雇用主である鴻海の中国子会社は、繁忙期に数万人を新規採用してきた経験があるという。

 シンガポールの投資助言会社、アシンメトリック・アドバイザーズのアミール・アンバーザデ氏は、「アップルと鴻海が中国のゼロコロナ施策の打撃を受けるのは仕方がない」とし、「しかし、これ(ゼロコロナ政策)は彼らにインドやベトナムなどの代替の製造場所を探すよう促すことになる」と指摘。「アップルは生産拠点の多様化を加速させるだろう」と同氏はみている。