(写真:ロイター/アフロ)

 米アップルが自社製品向け半導体の一部を米国内の工場から調達する計画だと、ブルームバーグ通信などが11月15日に報じた。製造分野の地理的なアジア依存を低減するための大きな一歩だという。

クックCEO「Made-in-USの半導体を購入する」

 現在、スマートフォン「iPhone」やパソコン「Mac」などのアップル製品は、その最終組立工程の大半を中国と、インドなどの周辺アジア諸国で行っている。

 その一方で、アップルは自社製品用プロセッサーのすべてを台湾からの供給に頼っている。アップルが設計し、半導体の受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が台湾現地で製造している。

 アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)は2022年10月にドイツで開催した社内会議で、現地従業員に向けて「我々はアリゾナ州の工場で生産されるプロセッサーを購入することをすでに決定している」とし、「この工場は24年に操業を開始する。あと2年もしくはそれより早くなるだろう」と語った。

 クック氏はおそらくTSMCが米アリゾナ州で建設中の半導体工場に言及したのだろうと、ブルームバーグは報じている。

TSMC、アリゾナ州に工場建設中

 TSMCは20年11月、アリゾナ州で資本金35億ドル(約4900億円)の会社を設立すると発表した(ロイター通信の記事)。この子会社で運営する半導体工場は、回路線幅5ナノメートル技術でウエハーを製造する。120億ドル(約1兆6800億円)を投じて建設するこの工場は、24年に生産を開始する予定だ。生産能力は月産2万枚を見込んでいる。

 また、米ウォール・ストリート・ジャーナルは22年11月9日、TSMCがアリゾナ州で2番目の工場として機能する可能性のある施設を建設中だと報じた。こちらの施設では3ナノメートルの最先端半導体を製造すると関係者は話している。投資額の規模は同じく120億ドル程度になるという。

「CHIPS」成立でTSMCやインテルが米工場建設

 米国では22年8月に半導体の生産や研究開発に527億ドル(約7兆3700億円)の補助金を投じる「CHIPS・科学法」が成立した。TSMCや米インテルはこの補助金を受給することを前提に米国内に工場を建設している。インテルもアリゾナ州の工場を建設中だ。米CNBCによると、インテルはオハイオ州でも工場を建設する計画。同社はこれらの工場で、自社製品に加えてファウンドリー(受託生産)も手がける予定で、アップルからの受注を狙っているという。

 アップルが先ごろ公表した21会計年度サプライヤーリストによると、21年9月時点で米国に製造拠点を構えていたサプライヤーは、約180社のうち48社で、1年前の25社からほぼ倍増した。カリフォルニア州には30を超える拠点があり、1年前の10拠点未満から3倍以上に増えた。

 TSMCのほか、米半導体大手のクアルコムや、電子機器受託製造サービス(EMS)大手の台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業、イメージセンサー大手のソニーグループといった主要サプライヤーが21年9月末までの1年間に米国の生産拠点を増やした。

 アップルのクックCEOによれば、現在世界のプロセッサーの60%が台湾で生産されている。こうした中、米議員らは、台湾有事の際のリスクを指摘しているとCNBCは報じている。アップルのような米国の巨大IT企業が最先端の電子部品を台湾に頼っている。米議員らは、もし中国が台湾に侵攻するようなことがあれば大混乱が起きると懸念している。