「働き方改革」を追い風にオフィス環境関連事業の売り上げが伸びている。コロナ禍によってテレワークが一挙に普及したことは、売上拡大にさらなる弾みをつけた。オカムラは最高益を更新し、イトーキは2桁増益を達成するなどオフィス家具業界は活況に沸いている。

 その一方で、文具メーカー、オフィス機器メーカー、通信機器メーカーをはじめ、多様な業種からの参入も始まっている。コニカミノルタジャパンも、そうした企業の一つで、順調に売り上げを伸ばしている。

 そうした中、同社のオフィスには見学希望者が急増しているという。それはなぜか。他のオフィスとどこが違うのか。同社のオフィス構築のノウハウを知るために「空間デザイン事業」説明会に参加した。

自社実践で「空間デザイン事業」のノウハウを蓄積

 コニカミノルタジャパンがオフィス環境関連事業に取り組んだ大きなきっかけは、主力事業の複合機市場が飽和状態になったことだ。加えて、ペーパレス化の流れは加速する一方で、もはや後戻りすることはない。今後の成長を考えればビジネス転換は必須。そこで、新たに取り組む事業の一つとしてオフィス関連市場への参入を決めたという。

 同社では、それを空間デザイン事業と名付けた。

 空間デザイン事業の大きな特徴は、実際に自社の「働き方改革」を実践するためのオフィス環境を構築することによってノウハウを積み上げていったことだ。実践することになったきっかけは日本橋本社オフィスの移転。

空間デザイン統括部 統括部長 宮本晃さん

「日本橋は家賃が高い上に、入居していたオフィスビルはワンフロア200坪で11階建てというペンシルビル。ワンフロアに一部門が入っているという状態で、部門を超えたコミュニケーションを取りづらかった。そこで、ワンフロア800坪というメガフロアをもつ浜松町のオフォスビルに移転することになったのです」(空間デザイン統括部 統括部長 宮本晃さん)

メガフロアを持つオフィスビルに移転することで、さまざまなタイプの仕事場を確保できるようになった

 現在の日本のオフィスに対する考え方の主流はABW(Activity Based Working)。かつては、ほとんどの仕事を個人のデスクで行っていたが、ABWはそうではなく、「集中が必要な仕事」「さほど集中は必要ない個人の仕事」「対話が必要な仕事」など仕事の内容に合わせて働く場所を選ぶという考え方で、1990年代にオランダで生まれた。

 オランダでは、世界に先駆けて同一労働同一賃金が実施され、パートタイマーの雇用が増加。すなわち、従業員数が増えたので、企業は事務所を効率的に使う必要が出てきた。そこで、席数を減らせる上に業務効率もアップするABWという考え方が急速に広がっていったのだという。

 同社の本社移転は2014年。当初3フロア2400坪で、そのうち1フロアはエントランスとショールーム、残り2フロア1600坪をオフィスエリアとしていた。2014~2020年まではフリーアドレス席のオフィスとして運用し、その後、2021年に一部400坪をABWオフィスに。実際の効果を測定し、空間デザイン事業推進のための客観的なデータを蓄積しようとしたわけだ。

 具体的な空間デザイン事業への取り組みは、本社移転の前年の2013年、「働き方改革」プロジェクトという形でスタートした。

 ちなみに、「働き方改革」プロジェクトが発足した2013年は、国連から日本に対して長時間労働や過労死問題の是正勧告が出た年。これから日本人の働き方が変わっていくことを多くの人が予感した流れもあって、大胆な実践に取り組めたのかもしれない。

本社の成果を支店にも展開していく

 新オフィスに移転したからといって、いきなりさまざまな実践に取り組んだわけではない。移転した2014年には「フリーアドレス」とそれに伴う「ペーパレス化」、2016年には「文書管理のゼロ化」といった具合に一つ一つ丁寧に取り組み、その成果を順次、全国の支店にも展開していった。こうした中で、コンサルティングのノウハウも蓄積していったのだろう。

 そして、2017年にはテレワークの全社運用に取り組んだ。早めに取り組んでいたため、コロナ禍でも大きな混乱はなかったという。

「2018年には、これまでのコニカミノルタジャパンの働き方改革を振り返って、空間デザイン事業は『いいじかん設計』というコンセプトを打ち出していくことになりました」(マーケティングサービス事業部 事業統括部長 栗山秀樹さん)

マーケティングサービス事業部 事業統括部長 栗山秀樹さん

 働く人には、「作業じかん」「創造じかん」「自分じかん」の3つのじかんがある。「作業じかん」を効率化し、新たに生まれたじかんは、アイデアなどを生み出す「創造じかん」やスキルを高めたり、視野を広げる「自分じかん」に当てていくことが理想だろう。

 そこで、空間デザイン事業では、作業じかんを効率化し、創造力をより刺激するオフィスづくりを目指している。