先進運転支援システムや、自動運転車両向けの物体認識AIソフトウエア「SVNet」を提供する韓国のスタートアップ「STRADVISION(ストラドビジョン)」がドイツ・韓国・中国の量産車に使用されているAIを搭載した路上デモカーを公開した。その目的は、日本のTier1メーカー(完成車メーカーに直接部品を供給するメーカー)に対して認知を深め、日本の自動車メーカーの車両への採用も狙うためだが、同社のSVNetはどこにアドバンテージがあるのか。路上デモの様子とともに紹介をする。

「量産車の価格が高くなる」という問題を解決する

 ストラドビジョンは、2014年に創業した物体認識AIを開発するスタートアップだ。創業当初はGoogle Glass(Googleによるヘッドマウントディスプレイ型ウエアラブルデバイス)向けのソフトウエアを開発していたが、自動車向けに転換。2017年には自動車向けSoC(System-on-a-chip。装置やシステムに必要な機能を実装した基盤)にディープラーニングのソフトウエアを搭載している。

 これまでに出資を受けたのは、自動車部品製造大手のZF、Aptivをはじめ、現代自動車、LGエレクトロニクス、IDG Capital、アイシングループなど。ソウル、サンノゼ、デトロイト近郊、東京、上海、フリードリヒスハーフェン、デュッセルドルフに拠点を構え、データアルゴリズムのエンジニアなど300人以上のチームによって、完全自動運転の実現を促進すべく事業を展開している。

 同社の顧客は、自動車部品のTier1メーカーで、そこに自動車向け物体認知AIソフトウエアのSVNetを提供している。SVNetは、既にドイツ・韓国・中国の50車種以上の量産車に採用。その主な特徴は、単眼カメラに特化していることと、ディープラーニングのアルゴリズムが軽量なこと。そのため、さまざまな種類のSoCに対応可能で、これまで18種以上のSoCへの導入実績がある。

 物体認識のためにLiDAR(光による検知と距離の測定技術)やステレオカメラ、専用のSoCが必要なシステムの場合、それを搭載する量産車の価格が高額になってしまうが、単眼カメラで動作し、多様なSoCに対応することで、コストを抑えて物体認識ができるのが、SVNetのアドバンテージだ。

 このSVNetによってストラドビジョンがフォーカスしている機能が、人や他の車、路上のレーン、空きスペース、信号、道路標識などを検知する車両の前方監視の「ProDriver」と、自動駐車アシストの「ParkAgent」、そしてAR(拡張現実)ディスプレイ向けのナビゲーションなどを実現する「ImmersiView」だ。車両内の乗員の安全確保を行う機能も以前は開発していたが、現在の注力分野ではないという。

 このほか、先進運転支援システムを開発するOEMメーカーの負担を軽減するため、地域や用途に合わせたSVNetの学習を支援する「CompliKit」も開発しており、2022年末には提供を開始する予定だ。

デモカーのSVNetには東京都市部の走行データを学習

 今回公開されたデモカーは、ホンダCR-Vに複数のSoCによるSVNetをインストールし、AI学習のために走行データを取得する仕組みも搭載したものだ。

ホンダCR-VにSVNetのキットなどを搭載したデモカー

 デモカーでは、ProDriver向けのTI「TDA4VM」と、ProDriver に加えImmersiView にも対応したQualcomm「SA8155P」と、異なるSoCに搭載したSVNetの動作が確認できるものだ(なお、今回は動作を確認しなかったが、NVIDIAのキットも搭載していた)。

リアの収納スペースに、複数のSoCキットやデータ解析などのためのデバイスを搭載

 そのため、フロントガラスにはTI向け、Qualcomm向けのそれぞれの単眼カメラを装着。車内には液晶ディスプレイが設置され、TIとQualcommのそれぞれのSVNetによる画像認識の動作が確認できるようになっていた。

フロントガラスに装着されたTIとQualcomm向けの単眼カメラ
Qualcommシステム(左)、TIシステム(右)それぞれのProDriverの動作が確認できる

 また、SVNetのシステム自体は単眼カメラで動作するが、車両にはSVNetのAI学習を強化するため、LiDARやレーダーによるデータ収集もできるようにしている(今回は2022年5月ごろから日本でインストールが始まり、SVNetには東京都市部の走行データを学習させている)。

学習用データを取得するためのLiDARやレーダーも装備