コロナ禍の2020年、2021年に急成長した「食品15分配送ビジネス」。しかし、半年前にバイクやフリッジ・ノー・モアが倒産。その後、ジョーカーは米国市場から撤退し、ゴリラズは現在、ライバルのゲティールによる買収交渉中と報道されている。
AIを活用した需要予測や効率的なオペレーション管理を行い、驚異的な短時間配送を提供した「食品15分配送ビジネス」だが、狭い商圏内で同業に加え、スーパーマーケットやコンビニとの厳しい競争の中で、先行投資の回収のめどがつかずに自滅したと見られている。
そうした中、ネット専業スーパーも昨年までの急成長から逆転しリストラを始めている。足元のインフレで消費マインドは明らかに利便性から価格志向に転換。利便性が上乗せされた価格を避ける動きさえ出ている中、伝統的なチェーンストアの販促力、価格戦略が力を発揮し始めている。
フレッシュダイレクト、ファームステッドが相次いで配送地域を縮小
ニューヨークを基盤に2002年にネットスーパーの先駆けとして成功を収めてきたフレッシュダイレクトが8月末、フィラデルフィアとワシントンDCから撤退を発表した。
同社は「無店舗ネット販売なので地元スーパーより安い」を切り札にニューヨーク商圏での足場固めに力を入れ、2013年にフィラデルフィアをはじめ、デラウェア、ワシントンDCおよび郊外へと商圏を広げていった。ニューヨーク商圏での圧倒的な強さを誇り、2019年時点でニューヨーク市内のネットスーパーの占拠率はフレッシュダイレクトが68%で、2位はインスタカートの13%、以下、ピーポッドの9%、アマゾンフレッシュの9%だった。
そして、コロナ禍で需要が急増する中、2021年にスーパーマーケット売上ランキング10位のアホールドデレーズが同社を買収。詳細数値は明らかにされていないが、現在、ネットスーパー市場での売上占拠率は1%程度[1]と推定されている。
今、アメリカではウォルマート、アマゾン、ターゲット等の大手がコロナ禍の追い風に乗るだけでなく、ロジスティクス分野へのテクノロジー投資で攻勢を強めており、本拠地ニューヨーク市でもフレッシュダイレクトは既存顧客を守るのが精一杯という状況のよう。商圏内に住む筆者の自宅にも以前は年に2回郵送されていた「期間限定99ドル以上購入したら50ドル引き」販促郵便メールが最近は隔月の頻度になったが、今どき郵便メールに投資をかけること自体に戦略の古さを感じる。
一方、サンフランシスコを基盤に2016年に創業したファームステッドは、AIを活用したネットスーパーオペレーションシステムを開発、地元の新鮮な野菜や精肉・乳製品などを安定的・迅速に自宅配送することで食のローカル志向のトレンドに乗って急成長した。2020年以降、マイアミ、ノースカロライナ州シャーロットおよびラリーダーハム、シカゴにも進出したが、今年8月初旬にこれらの地区からの撤退を発表し、本拠地サンフランシスコに経営資源を集中することになった。
フレッシュダイレクトとファームステッドに共通するのは、創業時点では時代の趨勢にあったコンセプトで人口密度の高い大都市で成功を見たものの、既存の大手スーパーマーケットが既に店舗・オンラインの両面で顧客を押さえている郊外では参入しても新規顧客の獲得が難しいという点だ。そして、本拠地のニューヨークやサンフランシスコもターゲット、アマゾン他の大手との競争が激化し、両社とも守りの体制に入ることを強いられている。
ゴーパフも人員と不採算拠点の削減を開始
他に注目されているのがゴーパフだ。同社は2013年にフィラデルフィアで創業し、地元の大学生の「今すぐ欲しい生活必需品を30分以内に配送」サービスで成長した。一時期は全米に600以上の拠点を持っていた同社だが、今年3月に社員数約1万5000人のうち3%削減を発表。その後、7月にはさらに約10%にあたる1500人と倉庫の12%に当たる75カ所の閉鎖を発表した。
また昨年、ヨーロッパのウルトラファースト配送企業のディジャ(Dija)社とファンシー(Fancy)社の買収を通じてヨーロッパ市場に参入したが、既に競合が激しい上に日本同様、地元の食品スーパーへのロイヤリティが高い市場であるため、1年ももたずに撤退するに至った。
ブルームバーグによると[2]、急成長の裏には商圏調査が不十分だったのか、価格訴求をする業態ではないのに低所得世帯の多い地域にも進出したり、他の新興企業のように生産性の高いオペレーションを可能とするシステム投資が進んでいない、などの戦略ミスがあるようだが、やはりスーパーマーケットやコンビニ等との競争の影響が大きいだろう。ゴーパフはもともと利便性を強みとするビジネスモデルで必ずしも価格訴求ではなく、インフレが長引けば不利になる状況にあった。