食品と生活必需品を15分以内に配送するウルトラファースト配送。ニューヨーク、シカゴといった人口密度の高い大都市に165㎡前後の小さいダークストア(倉庫)網を張り巡らし、狭い商圏内を自転車やEスクーターあるいは徒歩で超スピード配送を実現している。次世代のオンライングローサリーとして投資家の注目を集めた一方で、初期投資をいつ回収できるのか道筋が見えないビジネスモデルとしても議論がある。その現状と今後を分析する。
資金調達ルートが途絶えると同時に営業停止
2022年3月4日、『ニューヨークポスト』は、ニューヨークとシカゴ市内で営業していたウルトラファースト配送(以後、ウルトラ配送)のバイク(Buyk)社が営業停止し、社員約870人に無給休暇を与えたと報道した。バイクはロシア国内のウルトラ配送企業サモカット[1]の別法人として設立され、ロシア最大手銀行ズベルバンク経由で投資家からの資金によって運営されていたが、2月24日のウクライナ攻撃に対するロシアへの制裁措置の結果、運転資金が途絶え、営業停止、チャプター11を申請した。その5日後の9日には同様に運転資金の一部をロシア投資家に頼っていたフリッジノーモア(Fridge No More)が社員600人を自宅待機させ、営業を停止した。
実はバイクはウクライナ攻撃の前日の2月23日、配送サービスのグラブハブ(Grubhub)との提携を正式に発表したばかりだった。当初はニューヨークとシカゴ30拠点でバイクがグラブハブのオーダーのフルフィルメントと配送を担当する計画で、グラブハブは15分配送とバイクが持つ2000以上のローカルおよびナショナルベンダーからの商品供給を利用することで食品配送を拡大する計画だったが、当然ながら、その後、話は立ち消えている。フリッジノーモアも、ニューヨークポストによると配送サービス最大手のドアダッシュに資産の一部を買い取ってもらう話が水面下で進行しており、社員に対するデューデリジェンスも始まっていたとのこと。ただし、ドアダッシュ側はこれを否定している。
ロシア制裁とは関係なく、運転資金枯渇で撤退した企業もある。ニューヨークとシカゴで営業していた1520社は昨年12月、突然、営業を中止した。『グローサリーダイブ』によると、1520のアプリを立ち上げると「(競合他社である)ゲティールのアプリをダウンロードしてください!」というメッセージが飛び出し、最初のオーダーが30ドル引きになる販促が展開されていた(昨年12月14日時点)。ゲティール(Getir)社は同社と直接何も関連は無いので、自社の幕引きを競争相手の広告メディアとして提供して最後の清算資金に充当したのかもしれない。