「海外の成果主義」導入の際は、「日本の働き方」を踏まえて進める企業が85%

「無形資産への投資は、欧米からの流れで日本企業にも重視されるようになったとの背景がある」と、調査結果を発表したアビームコンサルティングの斎藤岳執行役員は指摘する。

 だが、海外発の個人の能力評価主義や職種別採用などの働き方は、日本の新卒一括採用や年功序列制、終身雇用での働き方とは大きく異なっており、海外で主流となる新しい働き方と、これまでの日本での社内企業文化との両立のバランスはたびたび問われてきた。

 これは人的資本経営についても同様だ。「人的資本経営の取り組みを成功に導くうえで、日本の制度・文化を理解した上で進めるべき、 という意見についてどのように考えるか」との質問には、「非常にそう思う」は19.3%、「そう思う」は48.1%と、肯定的回答が67.4%だった。

 「これまで導入したことのある海外発の人事改革」という質問では、「成果主義」「ジョブ型制度」が共に31.5%、「タレントマネジメント」が24.3%だった。

 だが、「導入した際の対応方法」との質問には、「海外の仕組みをそのまま導入した」のはわずか6.0%。「海外の仕組みを参考にしながらも、日本の制度・文化に応じてカスタマイズした」が53.6%、「日本の制度・文化から独自の新たな仕組みとして再構築した」が32.7%となっている。

 日本では、これまでは上司と部下で一丸となって仕事に取り組む、部署やチームプレーでの仕事が重視されてきた。複数人で同じ仕事をすることは、仕事が属人化しないため回りやすい、社員同士での絆が高まるなど良い面もある。つまり、「和を以て貴しとなす」の日本流の働き方の良い面は踏襲しつつ、個人のスキル評価や職種ごとの指標なども進めていく必要があるということだろう。

ガラパゴス化を避けるためには「人事のデジタル化」が鍵に

 ただし、「日本の制度や文化を理解するといっても、ガラパゴス化してはいけない」と、斎藤氏は強調する。

 従来のように一つの案件を承認するのに複数人のはんこが必要となる、飲み会に参加しなければ仕事の話についていけなくなる、といった日本企業ならではの悪い面は改善していかなければならない。

 そのために重要視されてくるのが、「人事のデジタル化」だ。

 人事のデジタル化が必要かについて、「非常にそう思う」と考える企業は20.8%、「そう思う」と考える企業は50.1%と、必要と考える肯定的回答は70.9%に達した。人事には主観や個人の好き嫌いが入ってはうまく機能しないため、客観的に評価できる指標が必要と多くの企業が考えていることが、ここから見えてくる。

 ただ、「人事のデジタル化を推進する上での課題」については、「推進における人材確保」44%、「AIの活用」41%、「社員一人一人にパーソナライズされた施策の実現」38%、「不足するデータの収集」37%、「既存データの統合・活用」36%という結果。人事のデジタル化が必要とは認識していても課題は山積しており、実態はまだまだ手つかずの部分が多いと言えるだろう。

「人的資本経営という言葉の認知度は高く、市場からも求められてきているものの、現在は成長企業がようやく着手し始めた、というのが実態。成長企業でも一部実践という状態なので、完璧にどの分野もまんべんなく取り組みができている企業は正直ないのではないか」と斎藤氏は現状を分析する。

 既に取り組む成長企業からは「適切なKGIやKPIの設定」「施策の優先順位付け」「データ収集や可視化基盤の整備」「ステークホルダーとの対話」が重要と認識されており、これから人的資本経営に取り組む企業は、これらを自社にできる部分から着手して進めていくことが重要だと言える。