大型店のレジレス化は最終的にはEコマースとの勝負に
今後、気になるのはアマゾンフレッシュのような大型スーパーマーケット業態のレジレス化の行方だろう。図表の通り、本腰を入れて技術開発を続けているのはアマゾンのみのようにも見える。筆者も買い物に行ったが、普通のアメリカのスーパーマーケットと品揃えは変わらない。強いて言えば、違いはホールフーズ・マーケットやアマゾンのPBを買える点くらいで、価格もウォルマートほど安くないし、低価格を全面に出している気配も今のところない。
米国では9月の消費者物価指数の「自宅での食費」が対前年で13.0%上昇というインフレの中、多少レジに並ぼうとも1セントでも安いところで買い物をしたい、という消費者が多い。なので時間に余裕のある人にとってはレジの有無より、他のスーパーマーケットと対抗できるだけの品揃え、そして価格プロモーションが成否を決めるだろう。
そもそも、スーパーマーケットに行って買い物をすると、たとえ、その日の夕食の分だけでも15分前後は売場をうろつくことになる。レジ待ち時間が解消されるのはすばらしいが、店舗に足を運ぶ時点で人はある程度、時間を取られるのは覚悟の上ではないか。本当に省時間を優先するなら、いまやどのスーパーマーケット、コンビニ、レストランもオンラインストアで即日・数時間以内の配送を提供している。
ところで、アマゾンの2代目CEOのアンディ・ジャシー氏は現在、マーケットプレース事業にさまざまなメスを入れ始めている。8月にはアマゾンゴー開発の中心人物で実店舗とテクノロジーVPだったディリップ・クマール氏をアマゾンウェブサービス(AWS)事業に異動させ、レジレス技術も直営店への適用からAWS同様、ライセンス事業化に焦点が移ると推測されている。今年5月にアマゾンブックストア他の実店舗68店から突然、撤退したように、技術を培養するために広げてきたレジレス直営店網はある段階で撤収、という可能性もゼロとは言えない。
マッシュジン7000店導入は実証テストを経ての判断
さて、レジレス技術が得意な領域は見えてきているようだが、これが本当に業界全体に広がるのかどうかのポイントは、やはりROIだろう。
Eコマースシフトで店舗・オンラインの両事業に設備投資を求められ、しかも、厳しいインフレの中、レジレス導入は本当に不可欠なのだろうか。これを検討するためには、①レジレスシステム自体のコスト(ランニングを含む)、②レジレスによる人時労働コスト削減または在庫補充などへの配置転換による収益力向上効果、だけではなく、③万引き防止による減耗率低下、④在庫管理精度の向上による食品廃棄削減、在庫最適化など、レジレス技術導入による潜在的な収益拡大の大きさも検証が必要だ。また、⑤既存のPOS、在庫管理システム等との統合の簡便さ、システムの使いやすさも重要なポイントになるだろう。
冒頭に述べたサークルKによるマッシュジン7000店導入はまさにマッシュジンの800店舗での実証テストの結果の上での判断だ。マッシュジンは実装開始から累積3500万以上の取引データを収集し売り上げが400%上昇したケースもある。ハードウエアのリース料は1台月額1000ドル[2]で、人手不足の上、消費ニーズの変化に合わせて小さなコンビニ店内で再加熱が必要な食事やラテ等作業が必要なドリンクを提供するには、レジはマシンに任せるのが合理的だ。このように数字が読め、店内業務合理化の様子が目に浮かぶところまでレジレス技術は進化している。
大型店については前述の通り、店内設置型にはまだ障壁がありそうだが、より投資額が小さいスマートカートやカウンター型、前回、紹介したクローガーがテスト中のコンピュータービジョンとカメラで万引きを見張るセルフレジシステムでも十分ショッピング時間の短縮化・防犯効果はありそうだ。いずれにしても、数年のうちに大手チェーンストアのレジ周りの景色がガラリと変わることは間違いなさそうだ。
[1] https://www.fsrmagazine.com/chain-restaurants/meet-dave-busters-new-futuristic-revenue-stream
[2] https://www.prnewswire.com/news-releases/mashgin-raises-62-5m-series-b-funding-at-a-1-5-billion-valuation-led-by-nea-301542339.html