アマゾンがリードするも、ジッピンも追い上げ

 自社直営のコンビニであるアマゾンゴー28店、スーパーマーケットのアマゾンフレッシュ44店、ホールフーズ・マーケット2店に加えて、レジレスのJWOシステムのライセンスが23カ所、空港内コンビニチェーンのハドソンやWHスミス、MLBチームのマリナーズ、NFLチームのシアトルシーホークス等のスポーツアリーナの売店も数多くレジレス化している。最近ではテキサス州のA&M大学内スタジアムストアもレジレス化し、大学生をターゲットするために大学構内にアマゾンカウンターやピックアップストアを積極的に広げてきた経緯を考えると、今後、大学内店舗のライセンス供与が加速することも予想される。

 アメリカ国内でアマゾンに次いで出店実績が多いのはジッピンで39店以上、直営は1店舗のみで残りは全てライセンス契約店舗だ。同社はアリーナ、スタジアムへの出店が圧倒的に多く33店、ニューヨークJFK空港やダラスフォートワース空港などメジャーな空港内コンビニ店舗にも技術提供しており、新領域としてスポーツバー型レストランチェーンのデイブ&バスターズおよびコカ・コーラと組み、フロリダ州ホリウッドに「ゲーム&ゴー」という28㎡のレジレス売店を出店。レストランの食品と飲料をグラブ&ゴーできる。今後、この業態も広げる計画だが、現時点で既にスクエアフィート当たりの売上高は10~15%増、人件費は5~20%減とのことだ[1]

 日本のパルタック(化粧品・日用品・一般用医薬品卸)が出資したスタンダードAIも遅まきながらコンビニのサークルK、空港や大学構内の売店に実装し始めている。AiFiは2019年にポーランド、スイスを皮切りに活発にEU内のカルフール、アルディの他、地元店舗とも取り組んでコンビニ業態をレジレス化。全世界で70カ所以上でレジレス化しているが、アメリカでは昨年、コロラド州で165㎡のスーパーマーケットをレジレス化した。

クローガー「クロ・ゴー」スマートカート。〔出典〕クローガー社広報資料の動画よりスクリーンショット

 スマートカートでは、インスタカートに買収されたケイパーが2020年10月からスーパーマーケット最大手のクローガーと提携し、数店舗でスマートカート「クロ・ゴー」をテスト中だ。今年5月にはアルバートソンズがヴィーヴ社のスマートカートを20~30店舗に導入すると発表した。今月14日、クローガーはアルバートソンズの買収を正式発表し、大型合併であるため米連邦取引委員会の審査を通過できるか議論が分かれているが、両社には重複しない商圏もあり、合併が成立すればDXの面でも規模の経済を享受できるのではないだろうか。

増える空港・アリーナ・大学キャンパス内売店への導入

 このように筆者集計だけでも米国内で1000を超す店舗がレジレス店として営業しており、その多くは100~150㎡程度のコンビニ業態と、さらに小型なスポーツアリーナ、空港、大学の売店だ。現在、これらの小型店舗では店内設置型を実装しているが、前述のようにマッシュジンやケイパーのような最大10アイテム程度を数秒で決済するカウンター型も急速に拡大している。このタイプはセルフレジのAI自動化版なので前回の記事(セルフレジ活用にストップをかけた、「万引き」という悩ましい問題)で取り上げたセルフレジ同様、万引きの課題は残るものの、投資額が小さく、数時間で全ての設定が完了するという点でこちらも見逃せない。

 消費者側から見ると「スピーディなショッピング」のメリットを最大限に生かせるのは、やはりスポーツアリーナや空港、そして大学の売店という「スケジュールが決まっていて限られた時間内に買い物しなければならない」環境だ。また、小型店で品揃えが限定的であるため、逆に言えば、ある程度、何を買うか決まっているような条件下でさらに強みを発揮するようだ。映画館なども良さそうでアマゾンも2018年にはシアターの可能性にも言及していたが、アリーナ等に比べて収容能力が小さい、そもそも映画館自体が集客に苦労している、という点が引っかかるかもしれない。