技術の不確実性(自然科学の不確実性)を前提にしたプロジェクトマネジメント
研究開発のプロジェクトが対峙せざるをえない“不確実性”は、上記の3つである。
顧客ニーズ(市場)の不確実や、競争環境の不確実性は、大きくいえば人間の営みの複雑性に起因するものだが、技術の不確実性(自然科学の不確実性)はまさに「神のみぞ知る」の世界である。技術の不確実性とは「こういうやり方をすれば、このぐらいの期間で、こんな結果が生み出せるのではないか」という当初の技術的な仮説が間違っている可能性がある。「筋が悪い」という言葉もあるように、やり始めてみたら「なにか違うな」と感じることはよくある。研究のスタート時点では、その旅がどうなるのかは、文字通り「神のみぞ知る」。
「やってみないことにはわからない」と言うと、研究投資をする経営トップの人から怒られそうな気もするが、研究プロジェクトの何割かはそういう性質を有するものだ。また、研究を進めながら、出口を探しながら前に進めていくようなプロジェクトもある。 神の御加護によってすべてが望みどおりにいくことはない。研究所メンバーは、すべてのくじ引きで「当たり」を引くというようなウルトラ強運の持ち主だらけということもない。
この現実を直視するならば、研究のプロジェクトマネジメントは次のように考えるべきだろう。 「すべて自分たちが思うとおりにいくわけではない。ベストシナリオ以外のルートを取らざるをえないこともある」を前提に、研究プロジェクトマネジメントを考えるべきである。そうであるならば、研究プロジェクトの計画を立てる際には、ベストシナリオ以外の可能性のあるルートを描いておき、上司を含め関係者で認識を合わせておくことが、極めて有効である。
上図は、食品系の研究プロジェクトを例に複数のルートを表したもの(架空の話)である。一番ハッピーなのは、一番上のルートをたどって「特保素材として開発に引き渡し」ができる技術を生み出せることだが、それは“希望”であって、実際には違うルートで違うゴールにたどり着く、あるいはゴールにたどり着けずに終了ということもありえる。大まかにどのようなルートをたどる可能性がありうるのかを、枝分かれ線として表現して共有するひと手間をかけることが有効である。
ただ、実際には、うまくいくルートだけで計画が立てられていて、図の点線より下の部分は研究担当者の頭の中で“暗算”されているだけのことが多い。また、上位管理職も、最初にベストルートだけしか説明をうけていないため、進捗確認の場で「研究が遅れている」「ゴールがコロコロ変わる」というような不満・不信を、プロジェクトに対して抱いてしまうこともよくある。それらを避けるために、研究プロジェクトが取りうるルート全体像を共有化しながらプロジェクトを進めていくことが有効である。このルート全体を共有する手間は、かけた以上のメリットを、研究プロジェクトにもたらしてくれるものだ。
コンサルタント 塚松一也 (つかまつ かずや)
R&Dコンサルティング事業本部
シニア・コンサルタント
全日本能率連盟認定マスター・マネジメント・コンサルタント
イノベーションの支援、ナレッジマネジメント、プロジェクトマネジメントなどの改善を支援。変えることに本気なクライアントのセコンドとしてじっくりと変革を促すコンサルティングスタイル。
ていねいな説明、わかりやすい資料をこころがけている。
幅広い業界での支援実績多数。