生分解性を生かし、肥料もできる循環システムを実現したい
設立から2年あまり。ビジネスは順調だろうか。玉倉氏は苦笑いを浮かべ、「環境製品はやればやるほど難しいと実感しているところです」と吐露する。
だが、その難しさを構成する要素と向き合い、それらを乗り越えるための策はある。
まず、コストの課題。ポリ乳酸の特性や機能はたしかに魅力的だが、価格が高い。
「場合によっては、ポリエチレンやポリエステルの繊維の10倍します。繊維として供給するだけでは、中間コストが加わり最終製品が高くなってしまう。そこで、私たちで全て引き受けられることをアピールし、価格を抑えようとしています」
同社は設立して間もない時期にTシャツやマスクを自社生産したが、これにも一貫生産体制をとれることをアピールする狙いがあった。
それでも値が張ってしまう部分はブランド価値で勝負していく。「世界にはゴアテックスのように繊維で選ばれる衣料もあります。ピエクレックスをそのような存在に育てていきたい」
生分解性についても、これを生かす循環システムはまだ実現していない。だが、腹心はある。
「ポリ乳酸は土に入れるだけで分解していくというイメージをもたれがちですが、そう単純ではありません。適切な微生物や処理技術を用い、数日で分解できるシステムを練っています。ただし、分解するだけでは面白くないので、ポリ乳酸の分子を短くして別の物質と結合させ、一部を肥料にできるようなシステムを考えているところです」
この循環システムをパッケージ化して、まずは村田製作所や帝人フロンティアの緑化事業として実証し、その実績をもって外部企業に導入を促していく心づもりだ。 認知度向上も課題と捉え、力を入れる。2022年4月には、タレントの武井壮氏をブランドアンバサダーに迎えた。また、菓子のグミを噛んでマスクをよく動かし、抗菌効果も咀嚼による健康も得てもらおうと、製菓メーカーUHA味覚糖と共同プロジェクトを実施するなど、話題づくりを仕掛ける。
ウエアラブル技術への挑戦も視野に
「ポリ乳酸による繊維はあくまでピエクレックスのブランドとしての第一弾です」と玉倉氏は言う。テクノロジーと環境という2つの軸足で、「でんきのせんい」を世に打ち出していくことに合致すれば、技術も材料もこだわらない。
「電気」と「繊維」に関連して、玉倉氏が「世界的に見ても、間違いなく潮流は止まらない。もう米欧中ではかなり進んでいます」と見るのが、ウエアラブル技術だ。
「スマートウオッチやスマートグラスなど、人間の着用するものに既に村田製作所の電子部品は使われています。この流れをさらに加速させるため、帝人の技術とともに、新たな製品にチャレンジしていきたい」
異分野の組み合わせは、時にイノベーティブな成果をもたらす。これまでも、画像工学と数学が結び付いて医療診断に革新が起きたり、航空技術と撮影技術が結び付いて測量技術が発展を遂げたりした。新結合、つまり組み合わせたことのない要素の組み合わせによる価値創造こそ、イノベーションの本質といわれてきた。
「電気」と「繊維」は世界を変えるだろうか。今はまだ、道のりの第一歩を見届ける段階に過ぎない。