DXに取り組む企業が増えている。各社によってその目標値は異なると思うが、「デジタル化により何を変革していくのか、その目標値とプロセスを明確にする必要がある」と、京セラの土器手亘氏は話す。同社では、その第一歩として社員の意識や組織風土変革のトリガーとしてデジタル化を位置付けようと考えているという。「DX推進組織だけの独り相撲にならないように、経営陣とともに社員を巻き込む」同社の活動について土器手氏は説明し、製造業におけるDXの本質と課題に迫る。

※本コンテンツは2022年4月18日に開催されたJBpress/JBpress Digital Innovation Review(JDIR)主催「第5回ものづくりイノベーション」の特別講演Ⅱ「製造業におけるDx、その本質と課題」の内容を採録したものです。

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何のためのDXか、本質を見極めることが大切

 DX(デジタルトランスフォーメーション)はデジタル化によって何かを変えていくことです。DXによって会社が変わるCX(コーポレートトランスフォーメーション)、それによってビジネスが変わるBX(ビジネストランスフォーメーション)というステップで、進化するとも言われます。

 ここで問題になるのは、DXによって何を変えるかという点です。社会、価値、事業、会社、業務、さまざまなレイヤーがあります。目標値としてどのレベルを目指すのか改めて考えてみる必要があります。当社はまだ自社の業務や企業風土を変えようとする段階で、DXの初心者です。なので、本講演のタイトルは「製造業におけるDx」とxを小文字にしました。

 DXのステップの最初に必要なのは経営層の覚悟(方針・戦略)です。DXで最も大きな位置を占めるのが、ビジネスプロセス/業務プロセス/社内ルールを見直すことです。現場にはさまざまな知識やルールがあります。それをデジタル化しようとするといろいろなノイズが乗ってきます。例えば、これまでやってきたからといって続けていること、誰のための作業なのか分からずに続けていることなどです。これらをそのままデジタル化すると大変なことになるので標準化や共通化を行うわけです。

 DXにおいて大切なのは、本当に必要なもの(本質)を選び出すことです。本質を見極めて整理することがDXにおいては非常に重要です。ここを飛ばして、すぐにIT化・デジタル化してしまうと、単に便利になるだけです。必要に応じて組織を見直し、その上でデジタル化を行うことが大事です。

 社内にはさまざまなルールがあります。例えば、まだ会社の規模が小さい時に作られたルールで今の規模では現実的でないもの、404条やSOX対応などによりオーバースペックになっているもの、財務上の都合で、現場に負担を強いているもの、さらに、ある個人の嗜好で決めたもの(特に工場のローカルルール)などです。ルールを守らせること・守ることは統制を取るためにも必要なことですが、ルールを守ることで安心して、メンバーが思考停止になってしまう弊害もあります。そのルールが意味する本質は何かと考え、それが変わっているなら、ルールも変えていくべきです。また、これらのしがらみ・呪縛を考え直すきっかけとしてのDXという意味も大きいと私は考えています。