監督者は「将来どんな現場にしたいか」将来のシナリオを描こう
では、なぜそのような差が生じるのだろうか。
一つは監督者の役割定義と認識であり、もう一つは現場経営(運営)にあると考える。負のスパイラル監督職は、多くの現場で実作業を監督しQCDを達成することが主要な業務となり、監督者本来の役割である「方針の策定、目標の設定・達成、作業の標準化と改善、人財育成」が未来視点で行われていない。未来視点でないことから、人財育成や改善などの投資時間を割けていないのである。
「現場の改善や人材育成の活動は監督者次第 !」と荒っぽく言うと結論付けることができる。もちろん、監督者を育てる仕組みや業務のフォローが課長以上にあってこそ成立することは承知である。プロ野球でもそうであるが、戦っている現場の第一線のメンバー、そしてその面々をどう動かすか、育成するかは監督の采配が大きいと考えられる。製造現場でも同じである。前述した「第一線監督者」の役割認識や、実践のレベル(=裁量)で、その現場の業績は変わる。監督者は「現場のプロ」や「現場のエリート」をどのくらい育成できたか、そして生産や改善にうまく活用できたか、で評価が決まる。
事実、筆者がメーカーの生産技術者だった際、海外工場の立ち上げ時(操業開始時)は、管理者よりも監督者の派遣を充実した方が工場もうまく回ったことがある。
また、第一線監督者の役割はおおむね以下のようになる。
① 将来方針の策定と、目標の達成(鳥の目・虫の目)
・明るい未来を描いた「職場未来変革シナリオ」の策定
・未来変革シナリオと課方針と連動した年度方針の策定と実践
・日々・時々刻々のQCD目標の達成
→時々刻々の問題を改善テーマへ
② 部下の育成
・人づくり(後継者・後輩・新人+強い多能工(改善・保全・工作)
→一人一人の成長シナリオの策定と実践
・信頼と協調性ある温かいチームづくり
→人と組織のレベルが、作業と改善のレベルを決め、業績形成へ
③ 作業の標準化とその改善
・安定したモノづくりのため標準化を図る
→標準化とそのさらなるレベルアップ(=継続的改善)
特に大切だと思うのは「将来方針」、平たく言えば、「将来こんな(魅力的な)職場にしたい!」という姿である。この将来のありたい職場がほとんどの監督者は描けない、描くまで時間がかかることがわれわれの現場でも散見される。
「なぜか?」というと監督者自身に将来どうしたいかの「おもい」がないことが主要因と考える。この影響は現場ではどのように映るかというと、「夢のない現場」となり、船頭のいない船のようである。
当然、市場や取引先の外乱、景気影響、投資や費用節減など、逆風的な事項はごまんとある。だからこそ、現場が活躍し輝く未来のシナリオを立てることや監督者の責任としてあるはずである。それをしないことには組織の仕事へのモチベーションや有意味性が高まらない。
また、改善や人材育成を進めるにあたり、忙しく時間がないと口を開けばいう監督者も多い。その要因は監督者の運営にあると考える。前述した正のスパイラルを回せる監督者は、スキマ時間をうまく使い、人の育成と改善を同時に行い、メンバーの成長感を実感させ、次なる改善に進めていく。正のスパイラルを回せるよう幹部・上司も協力・支援し、強い現場としていくことが競争力を高める上で大切である。
コンサルタント 石田秀夫(いしだ ひでお)
取締役
生産コンサルティング事業本部(兼)TPMコンサルティング事業本部
本部長(兼)副本部長
シニア・コンサルタント
大手自動車メーカーに入社し、エンジニアとして実務を経験。生産部門および開発設計部門のシームレスな収益改善・体質改善活動を支援。事業戦略・商品戦略・技術戦略・知財戦略を組み合わせた「マネできない ものづくり戦略」を提唱し、次世代ものづくり/スマートファクトリー化推進のコンサルティングに従事している。