第8回となる今回は、タイの製造拠点における人づくりとして、「方針管理・日常管理の有効性を高めること」について、管理者の育成を加速させ、目標を高いレベルで達成できるようにする運営のポイントについて説明する。

タイ製造拠点における方針管理・日常管理の実態

 私はこれまでに20社以上のタイの製造拠点の支援をしてきたが、ほとんど全ての製造拠点で方針管理(目標管理やMBOとも言われる)を実践した。これは日本企業のみならず、製造拠点で期待される成果を実現させるための管理の仕組みとして、方針管理がグローバルで通用する有効なマネジメント手法と認知されている証拠だろう。

 しかし、本当の意味で方針管理を有効に運用できているかと考えてみると、大いに疑問が生じる。言い換えれば、形ばかりの方針管理が横行しているのではないかということだ。

 また、製造拠点においては日々の管理として日常管理も重要なマネジメントである。方針管理で期待する成果を明確にしているものの、成果を実現するためには、日常管理をしっかりと行い、少なくとも今よりも悪化させない(日々の問題に速やかに対処・解決する)管理ができていなければならない。

 今回はそれぞれの管理の実態から課題を抽出し、その処方箋として管理レベルを向上させつつ、管理者を育成していく取り組みについて整理してみよう。

・方針管理の実態
 方針管理については、製造拠点として総合的な目標を設定し、それを各部門や個人が受け取って目標や施策を展開、その実行管理を行うことが基本である。特に大切なのは、現状を正しく捉え、目標とのギャップがどの程度あるのか、そのギャップはなぜ発生しているのかを踏まえて目標を設定し、施策を計画的に実施していくことだ。しかしながら、多くの企業では総合目標も「前年比10%向上」「不良半減」などと、ただ決めただけというケースが多いように思う。

 最大の問題は、その目標を達成するために何を行うかが具体的になっていないことである。目標そのものは必要性の観点から達成すべきものになっているが、それを実現できるように要因を追求し、施策を展開することができていないことが多く見受けられる。具体的には、現場の実態が見えていないため、とにかく言われた目標を受け取り、部門や工程に無理やり目標を割り付けてしまうのである。

 受け取った管理者が目標達成のための道筋が描ければ問題ない。ところが、現場の実態を把握できていないため、現地管理者からの施策は期待できず、多くは日本人赴任者が一生懸命考えることになる。結果として、施策案は日本人頼みになり、現地管理者はますます日本人に言われたことだけをやればよいという状態になっていく。

 ある日系タイ企業の社長が、「この拠点の管理者はPDCAサイクルを知っている。しかし実態はDo→Do→Doばかり」と嘆いたことが印象深い。これはまさに言われたことだけをやっている現場の実態を表しているのではないだろうか。

・日常管理の実態
 先述した通り、方針管理で掲げる目標は日常管理ができている前提で策定されるものである。

 例えば、不良率を2%から1%に削減するという目標があるとすれば、それは不良率2%がスタートとなる。しかし、現場で不良率が悪化し2%の実現すらままならないという現場も出てくる。こうした現場では、日々発生している問題や変動に気付けない、あるいは気付いても対処できていないと思われる。不良が増加しているという悩みを持った現場に行ってみたところ、現地管理者が意気揚々と他の作業者と同様に作業をしている姿を見ると、「問題や変動に気付くはずがない・・・」と心配になるほどである。

 また、現地管理者が問題に気付いても解決する手段を知らず、ただ作業者に注意喚起するだけ、あるいは上司に報告するだけで自ら意思決定して行動を取れないなど、日常管理が機能していない現場も多い。

 確かに方針管理における目標を自分事とし、さらに日々の目標に置き換えることは難しいことだ。職場の目標を日々の目標に置き換え、具体的に何を達成するべきか明確にして、目標達成への道筋をつけた日常管理ができるよう現場と共有することも忘れてはいけない課題である。

方針管理・日常管理を早期に立て直すための処方箋

 方針管理・日常管理を早期に立て直すには、設定している目標やテーマを、総合目標や部門目標、個人の目標のそれぞれで適正にすることが大切である。適正にするためには、達成可能で、かつ現地管理者の成長に資することを考える必要がある。設定された適正な目標に対してテーマを確実に実行することにより、関連するメンバーが成果感を得て成長につなげることができる。

 多くの企業では上位から割り付けられた目標をそのまま部門の目標にしていることがあるが、これは目標管理という仕組みを使った「管理の放棄」である。設定した目標を確実に達成するために重要なのは、

・問題・課題の設定を具体的に行うこと
・併せて現状分析、施策検討力を強化すること
・目標達成に向けた具体的な行動を考え、その一連の行動を粘り強くフォローしていくこと
である。

 ある企業の一つの取り組みとして、方針管理を題材にして現地管理者に個別指導を行いながら、目標の達成と人材育成の同時実現を目指して推進したことがあった。選抜された部門の現地管理者に対し、目標達成のためのテーマ推進を個別にフォローするのである。

 スタートすると現地管理者が担当している目標やテーマへの理解が不足していることが判明した。言われた目標を繰り返して説明するだけで、テーマの進め方を全くイメージできていない人が多いことに驚いた。設定された目標やテーマの上位の目標はなにか、なぜそのテーマが大切なのか、なぜその目標値なのか、目標に対する現状の捉え方、達成への障害はなにか、その障害が発生している具体的な要因はなにか、など、まさにCAPDサイクルとして実行できるように進めた。
CAPDサイクル:C(現状把握)から実施する改善サイクル。本例では現状分析を踏まえた施策検討を重点的に実施したため、おおむねこのサイクルで回した。

 こうしたことを個別のテーマごとに具体的に議論・指導していきながら、検討や行動の過程を現地管理者とJMACコンサルタントがサポートし、現場で実践した。現場での実践の際は、現地管理者の上位管理者にコミュニケーションを取ってもらうように促したことも付け加えておこう。

 この過程で現地管理者が育つだけではなく、現地管理者の上位管理者が部下への指導・助言、およびフォローの方法を体得していくことができる。最後は現地管理者自らが成果発表を行い、社長や幹部に成果と成長を認めてもらった。これで関連メンバーの成長が実現されたと考えている。

 なお、この取り組みは一過性のものではなく、管理者になるための登竜門として定着した活動となった。コンサルタントが指導だけでなく、現地管理者の取り組みの質や内容に関する評価を行うことで、人事評価の一助にもなったのである。

 第8回はタイの製造拠点における管理者を育成するための方針管理・日常管理運用の処方箋について説明した。次回は人づくりという観点で「タイでのマネジメントの難しさ」について具体的事例を交えて整理する。

コンサルタント 角田賢司(つのだ けんじ)

生産コンサルティング事業本部
プロセス・デザイン革新センターセンター長
兼 デジタルイノベーション事業本部 シニアコンサルタント

IEをコア技術として収益向上のコンサルティングに取り組んでいる。自動車(部品)、化学プラント、樹脂成型、建材、食品等、多業種で収益向上の支援を実施。現場の生産性向上、品質向上、調達コストダウンや在庫削減等複数テーマを同時に展開、マネジメントの支援を行う。近年はタイ・中国等の製造拠点支援として生産性向上や品質向上の成果実現と併せ、マネジメントの仕組みづくり、ローカル人材育成を実践