第7回となる今回は、タイの製造拠点における人づくりとして、「管理者育成」のポイントについて説明する。

タイ製造拠点における管理者の実態

 タイの製造拠点を成長させるには、十分な質と量の管理者を育成・確保することが重要だと、ほとんどの企業が感じていると思う。ところが、管理者が充実していると答えられる企業はほとんどないだろう。

 管理者になり得る人は日本からの赴任者(駐在者)と現地スタッフである。これまでに現地化という取り組みの中で、日本人赴任者を極力少なくするようにしている企業もあったが、実現が難しく、相変わらず日本人赴任者に依存せざるを得ない企業も多いのではないだろうか。

 これまでのタイ企業の支援経験から、現地拠点で管理者を育成・確保するための処方箋を考えてみたい。

■日本人赴任者の実態
 日本人が海外赴任するケースには大きく2つある。1つは現地拠点の経営を担う場合で、順調にいけば比較的長期間、赴任することになる。もう1つは現地拠点の部課長クラスとして赴任する場合で、2~3年程度で異動することが多い。ここでは部課長クラスとして赴任する人のケースを中心に考えていこう。

 一般的に初めて赴任する場合、日本国内で赴任前研修を受けている。どのような赴任前研修を受けているかを調べると、語学(英語)と異文化研修が多い。

 ところが、海外の製造拠点のマネジメントに必要な知識を体系的に学んだということは聞いたことがない。これはおそらく、赴任前後で専門の部署が変わらないことが理由だろう。しかし、海外拠点に赴任すると日本国内での役職よりも1~2クラス上の役職になることが多く、仕事も自分で行うことより現地の人に指示・指導することが増えるのが一般的で、総じて役割や期待が大きくなる。

 そのため、日本人赴任者は過去の経験と現地で求められる役割のギャップに苦しんでいるというのが実態ではないだろうか。海外赴任が当たり前になりつつある現在、他国への赴任経験がある人も多くなったが、文化や風土の違いに苦労されるケースもあるようだ。

 また、部課長クラスとして赴任する場合、その期間は3年程度と短期間のため、赴任者は高い志を持つことが難しく、まずは安全に大きな問題なく赴任期間を終えればよし、という意識になっている可能性があることに注意が必要である。短期的な問題解決に終始し、中長期的な課題にはなかなか取り組めないとなると、結果として短期間で赴任者が変わり、現場のマネジメントが変わる。

 以上のようなことが起きているのがタイの現場の実態といえるだろう。

■現地管理者の実態
 現地管理者について考えてみよう。年功序列が非常に強く、目上の人に意見を言わない風土があるタイという国では、経験が豊富な人、かつ現場をよく知っている人が管理者になっていることが多いように感じる。

 少し話をしてみると管理者の雰囲気を醸し出し、部下に指示しているように見えることもあるが、よく話をしてみると管理者自身はその上司から言われたことを単に部下に伝えているだけ、部下の意見を聞くこともほとんどないような人が管理者になっているケースがある。現地拠点の経営者が管理者に期待する役割を伝えておらず、管理者側も教育も受けていないため仕方がない面もあるわけだが、これは放置していていいことはない。

 また、管理者は日本人赴任者よりも長い現場経験を有していて、短期間で入れ替わる複数の日本人赴任者とコミュニケーションを取る必要があるため、日本人赴任者の性格や行動の変化に苦労していることもある。

 日本人赴任者の管理者としての振る舞いが現地管理者に悪影響を与え、不信感につながることもある。極端な例では表向きはいい顔をしているが、裏では日本人赴任者を見下し、交代するまで適当にあしらっておけばいい、というような振る舞いが見られることもある。

■現地拠点管理の実態
 これまでにやや極端な管理者の実態について述べてきたが、多かれ少なかれ、このような管理者の問題を抱えている企業が多いのではないだろうか。中でお最も問題となる現地拠点では、志が低くマネジメント経験の乏しい日本人赴任者と管理者の役割や行動を学べていない現地管理者による運営となっていることだろう。

 下図に管理者を中心とした人材の問題について整理しておいた。これをもとに自拠点の管理者の実態を客観的に評価し、弱みを発見し、それを改善・強化する取り組みを行ってもらいたい。管理者が育たず、問題が発生する都度、火消しの問題解決だけをしているような製造拠点は成長する可能性は低いと言わざるを得ない。