「未来社会」は住民や多様な組織とつくる

 ウェルネス分野の取り組みにも力を入れてきた柏の葉では、市民の健康づくりの拠点として、ららぽーと柏の葉内で「まちの健康研究所『あ・し・た』」が運営されている。同研究所では、健康にまつわるサービス・情報などを無料で提供しており、運営には住民も参加している。「あ・し・た」の存在は、ヘルスケアのデジタルサービス進展にも寄与しているという。

 「データプラットフォームを介した新たなヘルスケアサービスを提供する際、この分野におけるサービス進展に関心を持つ住民に、協力を要請することができます」(吉崎氏)

 「あ・し・た」は、最先端のヘルスケア情報を集めた、住民が健康づくりに活用できる拠点であることはもちろん、参画企業にとっても単なる健康データの取得・モニタリングに終わらない、住民とコミュニケーションをとることができる、貴重なコミュニティとなっているのだ。

 柏の葉では、体重や歩数管理、AI管理栄養士による健康アドバイスなどが利用できるポータルサイト「スマートライフパス柏の葉」が提供されている。ポータルサイトの利用者に高齢者が多かったため、ITリテラシー向上および利用促進などの観点から、有人サービスカウンターを設置した。
 「デジタルの施策を進めるうえでも、住民の方々との直接的なつながりは大切だということです」(吉崎氏)

データプラットフォームを利用した「スマートライフパス柏の葉」のデータ連携
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 長期にわたり柏の葉でスマートシティに取り組んできた同社は、地域・地元住民との関係構築を、街づくりにおいて最も大切なものの一つと捉えている。例えば、AIカメラの設置などには住民の理解が不可欠だが、直接顔を見て丁寧に説明することで、様々な関係者に、良いことであると理解され、設置が実現した。

 同社の一連の取り組みは、全て社会課題の解決のために行っているものだという。郊外の街づくりでは、駅前にスーパーマーケットをつくり、あとは住宅を中心につくっていけば早く街が出来上がるが、それでは新たな価値を提供することも社会課題を解決することもできない。新たな価値を提供していくためにはオフィス、商業、ホテル、住宅、デジタルインフラなど複合用途での開発が必須であり、社会課題解決にはアカデミア・企業がイノベーションを起こせる場づくりが不可欠である。

 「街づくりでは、社会とのつながりを重視し、不動産業を営む企業としてどのような社会インフラ、コミュニティを提供すべきなのか-という視点を大切にしています」(吉崎氏)

 住民と接するなか、付加価値の高い街づくりには、大きな期待が寄せられていることに気づいた。「現在では住民からのこうした期待が働く原動力になっている」、そう吉崎氏は語る。最近では、スマートウォッチをつけた壮年の男性から「健康管理が楽しくなった」と感謝の言葉をかけられたという。

 「UDCKを中心に公民学連携の街づくりを推進してきましたが、結局街はみんなで使うもの。街づくりは弊社や行政だけで進めるものではなく、住民や、多様な組織・事業体が関係していくことが大切です。デジタルサービスの提供、自動運転社会の実現、他の取り組みもそうですが、未来像を実現するうえで最も大切なのは、街に関わる全ての人とのつながりなのだと、日々強く感じています」(吉崎氏)

UDCKの構成団体と柏の葉における公・民・学の連携イメージ(図表提供:三井不動産株式会社)
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