◆ 各プロセスの弱点を徹底的に議論し洗い出す
まずは、今の会社の全プロセスに渡って、お客さま視点で管理の弱点を議論した。今まで何気なく行っていた仕事の1つ1つの意義、機能を、「なぜ必要か、なにが足りないのか」「お客さまはなんというだろうか」を、自問自答で議論した。ISO9001規格ありきで必要な管理を安易に考えない。この出発点はその後の品質マネジメントシステムに大きく影響を及ぼすところである。ここで、プロジェクトメンバーが得たものは、「理論武装」だった。
安心を与えられるということは、「なぜならば、このような理由だからである」という理論武装ができることで、手段は目的から生み出されるということを理解した。もちろん、これまで知らない自動車産業をターゲットにおいていたため、それを勉強しつつの議論である。私もコンサルタントとしてこの議論をけん引するにあたり、さまざまな疑問をメンバーに投げ掛け、彼らなりの結論を導き出すように仕掛けた。活発な議論ができたと思う。
◆ 人材育成を中心に据えた活動の展開
しくみを構築していく中では、現場がそれをまわせるだけの理解が備わっているかが重要となる。新たな管理手法やツールを設計・開発から製造、品質管理に渡って導入したが、その意味や目的をきちんと理解して使えるようになるのは一筋縄ではいかない。多くの時間を費やしたとしても、"世代交代"の旗印の下、方針がぶれることの無いよう妥協をしてはならない部分だった。しくみの検討結果から、必要な管理ツールを体系化、整理し、半日程度の研修を現場ごとに展開した。
今まで使っていたQC工程表や作業標準書なども、その意味や使い方を改めて理解した。管理だけではなく、基礎となる原材料や設備など、固有技術の領域も網羅するように体系化した。この活動の結果、しくみとリンクした「教育・訓練体系」を作り上げることができた。知識が備わるだけでなく、自らに対する会社の期待を実感として感じ、日常の会話も変化してきた。それは、「考える組織と人」への変化である。のちにお客さまから最も評価されたのは、この教育システムだった。
約1年半のプロジェクト活動の期間を要したが、認証取得も行い、同時並行で進めてきた営業活動も実を結び、自動車用カーペットの新たな受注も獲得することができた。当初は難しいとされていた自動車産業への参入を成し遂げたのである。そして何より、次世代リーダーの自覚が生まれ、思考が変わり、成長を始めた。
Y社がISO9001による品質保証改革に成功した要因は、目指す姿が明確であり、活動がぶれなかったこと。ISO9001規格起点で考えなかったこと。そして、この活動を将来への投資として人材を含め、十分なリソースを投入したことにあると思う。
現在、ISO9001は多くの企業が導入しているが、その成果については、疑問を感じている企業も少なくない。形骸化している、審査に傾倒した活動になってしまっている、成果が数値などで見えにくいなどがその理由の多くを占める。であるならば、もう一度、原点に返って品質マネジメントシステムを見直す時期がきているのではないだろうか。
一度作り上げた完成しているかのようなしくみを刷新するには、大きなパワーを必要とする。思考の視点を変えなくてはならないかもしれない。そのきっかけは、会社自身が自ら作り出さねば、始まらない。経営環境が次々と変化する中、品質保証は最大かつ不可欠な基盤である。
その変革こそが今後の事業基盤となるものであり、事業成長の鍵を握っていると言っても過言ではない。「品質の戦略」をどのように考えていくのか、何を仕掛けていくか、考えてほしい。
コンサルタント 安孫子靖生(あびこ やすお)
生産コンサルティング事業本部 品質革新センター センター長
シニア・コンサルタント
品質の領域を中心としたコンサルティング活動を展開、品質保証体制の構築、品質マネジメントシステムの構築、改善、品質管理改善、業務プロセス改善、ISO9001・IATF16949・ISO13485などの導入支援等を専門としている。製造業をはじめ様々な業界での経験を有し、営業、設計開発、製造のプロセスの連携を重視した品質マネジメントを目指し、改革立案、推進指導、各種研修を展開している。