質疑応答を活発にするための工夫

 技術発表を聞いた後、いわゆる質疑応答の時間が持たれることがあるが、その質疑応答は活発に行われているだろうか。

 よくあるスタイルは、発表が終わったところで会場の人に質問を求めるものである。しかし、この方法では、時間の制約もあり、どうしても口を開ける人は一部の人に限られてしまう。結果、多くの人は人の話のやりとりを聞くだけになるため、場に入り込みにくい心象が残ってしまう。

 また、大勢の前で質問する人は、「こんな疑問って、自分だけかも」という不安を感じることがある。そのため、人によっては「基本的な質問で申し訳ありませんが・・・」などと過剰に謙遜しながら質問をすることもあり、やりとりがときにまどろっこしく感じることがある。

 さらに言えば、質疑応答で自分が指名される可能性があるかと思うと、無理にでもなにか「質問」を考えなければいけない、気の利いた質問をしなければならない、など聴講者に緩やかなプレッシャーになることもある。

 あまり質問が出ないのも発表者に失礼だということで、主催者が気を遣って事前にお願いしていた人(さくら)に予定調和的な質問をしてもらうようにしているケースもある。こういうやり方は主催者がこの場を無難に過ごそうとしていることが参加者に何となく伝わってしまうもので、あまり効果的ではない。

 そこで、一つ、具体的な工夫を提案する。

 それは発表を聞いた後で、聴講者の皆さんに、隣同士の2人組で5分程度、感想、疑問、意見などを話してもらうように仕向けるのである。大勢の前で手を挙げることはためらわれても、2人組だったら口は開きやすくなるものだ。というより、2人組だったら口を開かざるを得ない。

 プレゼンを聞いて気が付いたことや自分の解釈について、2人で素直に話をすれば、「なんだ、他の人もこれを疑問に思っていたんだ」ということが分かり、「では、全体でも質問してみるか」という感じになりやすい。2人組で話をした後に全体の質疑応答にすると、従来のやり方よりも場が活発になる。

 間違いなく全員が口を開き、自分の言葉で解釈を語ることで、参加者の心に残るものが大きい。発表者にとっても、自分が提供した話題について、会場から共鳴というプレゼントが返ってくる。

 2人組で対話してから質疑応答に臨むスタイルは、聴講者、発表者の双方にとってメリットが大きい方法である。

 主催者は、聴講者の多くが場に期待し真摯に対話することを信じることが大切である。そして、その信念は必ずや聴講者に伝わる。「私たち一人一人が真剣に場に臨むことを信じてくれているのだな」ということが聴講者に伝われば、技術発表会の場は有意義なものになるだろう。

コンサルタント 塚松一也 (つかまつ かずや)

R&Dコンサルティング事業本部
シニア・コンサルタント
全日本能率連盟認定マスター・マネジメント・コンサルタント

イノベーションの支援、ナレッジマネジメント、プロジェクトマネジメントなどの改善を支援。変えることに本気なクライアントのセコンドとしてじっくりと変革を促すコンサルティングスタイル。
ていねいな説明、わかりやすい資料をこころがけている。
幅広い業界での支援実績多数。