女性のサポート体制はますます厚く

 既に女性が活躍しているから、これ以上の女性の支援は不要というわけではない。逆に同社では、ますます女性支援が厚くなっている。

 例えば、子育て支援。既に長期の育児休業制度、時短制度、社内保育園、家事代行サービスなど、子育てと仕事を両立できる環境は十分そろっているようにみえるが、その後、復職プログラムの充実に力を入れ、さらに進化させていった。

 まず、育児休暇に入る前に、上司や人事部門などと面談をして、今後、どのような働き方をしたいのかを話し合う。また、休みに入っている間は、会社の新しい動きなどが定期的に送られてくるので、復職後のギャップを感じないで済む。スムーズに復職できるように、希望者は月80時間を上限に働ける「ならしプログラム」もある。

 さらに復職の2カ月前と1カ月前には、再び、「今後、どういう風に働きたいか」についての面談がある。子育てを実際に体験することで、あるいは会社に新しい動きがあったことなどで、育児休暇前とは希望が変わっているケースもあるからだ。

 もっとも、仕事と子育てに関する本当の悩みは復職した後にやってくる。「子供がぐずる」「家事をする時間がない」「夫が働くことに難色を示し始めた」などは、その例だ。

 そこで、誕生したのが『IDOBATA会議』。「Iは「Innovation(変革を起こす)」、DOは「Do(行動する)」、BAは「Balance(ワーク・ライフバランスを実現する)」、TAは「Talent(才能・能力を生かす)」の意味が込められている。復職後2年以内の社員を対象にした相談制度で、子育てで困っていること、今後のキャリアビジョンの描き方、効率的な仕事のやり方をはじめ、何でも相談できる。相談にあたるのは、子育て経験を持つ女性役員やキャリアメンターといったベテランママたちだ。

「同じ悩みを共有することで安心できるし、彼女たちとの情報交換によって視野が広がったり、これまでのキャリアの棚卸しなどを通じて、自律的なキャリア形成につなげていけるようになることを狙っています」(金澤さん)

 こうしたさまざまなフォローが100%の復職率につながっているわけだ。

臨機応変に新しい制度が誕生する理由

「実は、体系的に女性が働くための制度ができたわけではありません。最も分かりやすいのは産休制度でしょう。誕生したきっかけは、これから産休に入るメンバー4人が『子供を産んだ後は、どうすればいいのだろう』と疑問を投げ掛けたこと。このように必要に応じて臨機応変にさまざまな制度が生まれたのです」(金澤さん)

 さらに女性が活躍できるように、2014年度からは、将来の幹部候補の女性管理職を対象に、ビジョンの描き方やリーダーシップなどについて指導する『ワンダーウーマン研修』、また、女性向け起業家育成プログラム「Ladies Be Ambitiousu」も始まった。一方で、家族の健康、介護問題など生活をサポートする制度は、さらに充実してきた。

 子育てや介護のサポートをはじめ、女性向けに誕生した制度の多くは誰でも使える。みんなが使うようになれば、新たな問題点が見え、そこからさまざまな制度が生まれてくるわけだ。

 女性向けの制度が整うとともに、今度は「育メン講座」「ハローベビー休暇」「パパプロジェクト」をはじめ、パパ向けの講座や制度が充実していったのは、その好例だろう、

 新しい制度をサポートしていくための新たな仕事も生まれてくるし、時には、サービスを提供するための専門の部署や会社をつくることもある。そこが、社員の新たな勤務先になることもある。

「実際、そういう社員がいました。その方はずっと広報部門で活躍されていましたが、60歳になった時に保育士の資格を取って、グループ内の保育園に異動しました。人生に定年なし。より長く、またやりがいをもって働くために、こうしたキャリア・チェンジは広がっていくと思います。会社としても支援していきます」(金澤さん)

 金澤さんの話を聞いていると、ダイバーシティのインフラが新たなインフラを生み出し、ダイバーシティは進化していくことが分かる。

 こうしたインフラの連鎖を起こす第一歩は、誰かの困りごとに気付く感性を磨くことかもしれない。