スタートアップ企業「スタイルポート」をけん引する間所暁彦さんは全速力で走っている。建設会社に入社し不動産企画営業を経て投資法人の上場業務に携わり、その後、不動産開発会社の担当役員を経験して独立。2度目の起業でVR技術を基軸にした不動産の流通ソリューションを提供するスタイルポートを設立した。なぜ、不動産とITを掛け合わせようと思ったのか?

モデルルームに行かなくても内覧ができる

 まずスタイルポートの提供するROOVという商品から説明しよう。ROOVは、3DCGを基軸としたクラウドタイプの不動産販売支援ソリューションである。

 誰もが簡単に、自宅のパソコンからでも外出先のスマホやタブレットからでも、3DCGで未竣工物件のモデルルームをVRで内覧できる。室内を歩き回ったり、外観やエントランス、共用部を見たり、断面図などで建物全体や、現地の街並みを見ることも可能だ。まだ建っていないにもかかわらず、完成後の状態を体験できるのである。

「われわれのサービスは、分譲マンションを購入しようと思ったときに不動産会社から説明される資料全部をクラウド上に置き、いつでもどこでもアクセスできるようにするものです。URLを共有すればどこからでも物件を見ることができます。モデルルームがなくても建物の室内をCGで立体的なデータにして部屋の中を歩き回ったりできます。まだ建っていない物件の外観も3DCGでつくって、町全体と合成して動画にすることもできます」(間所社長)

 今までのVRは、定点で360度見回し、別の部屋に移動するときはワープするというスタイルだったが、スタイルポートが独自開発したコンテンツ「ROOV walk」は、仮想空間内を歩き回ることができる。「世界中どこを探しても実現するための技術がなかったので、自社で開発しました」(同)

 窓から見える外の景色も、ドローンを飛ばしてその部屋の高さに合わせて撮影して合成すれば実際に見える景色をつくれる。キッチンからリビングに行って、バスルームに行ってといった生活の動線を体験できるので、未来の生活がイメージしやすい。さらに、採寸もできるので、今、持っている家具が入るか、どこに置くか、梁から下は何センチあるからこの棚は入るとか、新しいものを購入するときに、どのサイズを買うとどのぐらいのスペースを占めるかなどが分かる。また、色や材質などを変えるのも自由自在だ。

 顧客がどの階の一室を選ぶか、価格がかなり違うので悩んでいるときは、それぞれの階からの景観を見せることもできるし、時間によって変わる日照条件も映し出すことができる。価格表はもちろん、ローンのシミュレーションで返済期間を変えるのはお手の物だ。全ての資料を電子化して渡せるので、顧客はモデルルームから手ぶらで帰れる。

「デジタルならではのメリットは、一つはシェアです。販売員の方はお客さまに2、3時間かけて説明しますが、お客さまが全部を記憶するのはなかなか難しいと思うんです。それをご自宅で、自分の好きな時間に、見たい部分をじっくりと見ることができる。ということは、販売員の方にしてみれば、そのお客さまが実際に家で何に何回アクセスして、どのページをどのぐらいの時間、見ていたかという状況をトラッキングして行動解析ができます。どこを集中的に見ていたかが分かれば、次に来場していただいたとき、あるいは、電話をするときにどこのポイントを重点的にお話しすればいいのかが分かります。だから、お客さまにとってみれば余計な説明をされることもなくなり、知りたい情報を的確に知ることができますし、販売する側にとっては商談が効率化できます」(同)

 また、モデルルームを作らない、あるいは数を減らせば建築コストが下がり、さらには環境負荷も減らせる。だからと言って、間所社長はモデルルームをなくしたほうがいいとは決して言わない。

「僕自身は、やはり自分で手触りや感触を確かめることは大事だと思っています。販売員の方とお客さま双方の効率を上げつつ、仮想と現実を組み合わせて、エンドユーザーの満足度を上げられればと思います。デベロッパーの中には、立地の良い場所に常設のモデルルームを構えて、そこで都内で売っている全ての物件を接客するという動きも出ています」(同)