「ものトレ」が生んだ成果と部門連携
実際に本プログラムを受講した社員からは「取り組んだ中で何より感じたのは現状分析の大切さだ。改善計画発表会までの3カ月間で現状分析の手法を教わったが、やはり、そこがしっかりしていないと、いくら改善案を出してもどれくらい成果があったか説明もできない」という感想があった。
現状分析では、ロスの構造を定量化することが特徴である。設備稼働率を例にとって説明すると、
①生産予定がないために稼働していない時間
②生産予定はあるが、材料待ちや設備故障により停止している時間
③設備が稼働しているが、本来、設備が持っている性能通りのスピードで運転できていないことによる増分時間
④不良品を生産している時間
など、ロスが発生する要因ごとに定量化し、改善余地を把握することで、改善の重点対象とアプローチが見えてくる。
問題を正確に捉えることができれば、改善の7~8割は実施できたも同然である。「ものトレ」ではここに重点を置き、改善成果につなげている。
また、この活動で生まれたのが部門を超えた連携である。例えば、データの見方はシステム部門へ、組み立て設備の仕組みは生産技術部門へ、納入品の仕様変更は購買部門へ、という風に、他部門に協力を仰ぎ、複数部門を巻き込んだ活動となった。これまでなんとなく部門間の壁を感じていたが、プロジェクトとして推進することで、とても円滑に進めることができた。
結果的に、この活動で上司や他部門、他部署との連携も図れ、コミュニケーション向上にもつながった。
業界全体を見渡す幅広い視野を養ってもらいたい
社長は「ものトレ」の効果の一つに「プレゼンテーションの質の向上」を挙げた。まず、以前に比べて具体的な数値で改善提案ができるようになった。
併せて、「ものトレ」修了後は自分に自信がついたのだと感じる場面が多くなった。社長自らも社員が成長した点は率直に褒めるように心掛け、本人のやる気もさらに引き出す。さらにそれを繰り返すことで仕事自体が楽しくなり、わくわくするような職場づくりにもつながる。
また、社長は「今後は社内にこもっていないで、どんどん外に出て他社や世の中の状況も勉強してほしいと思っている。そして、水道業界全体を見渡せるような幅広い視野を養ってほしい」と、今後の成長への期待も持っている。
「ものトレ」を通じ、今、E社はものが言える職場、わくわくする会社へと変わりつつある。基本を大切にする「真面目」な姿勢、そこに新たな社風が加わって、未来を担う製品を生み出す素地となるに違いない。われわれの生活インフラを支える企業として、水道事業への貢献に向け、E社の積極果敢なチャレンジが続く。
コンサルタント 茂木龍哉(もぎ たつや)
サプライチェーン革新センター センター長
シニア・コンサルタント
生産、物流機能領域を中心に、在庫適正化、生産管理システム導入、コストダウンなどのコンサルティングを行う。サプライチェーンマネジメントの視点から、現場改善から経営改革に至るまでの幅広い場で改革・改善活動を支援。製造業の人材育成にも積極的に取り組んでおり、自律的継続的改善ができる職場づくり、そのための教育プログラム開発など数多くのプロジェクトに参画。主なコンサルティングテーマは「生産管理システムの設計・再構築」「在庫削減のための改革立案および実施支援」「現場の生産性向上・製造原価低減余地診断」「物流コスト低減のための3PL業者選定支援」「SCM改革の基本構想立案」など。共著に『物流改善ケーススタディ65--コストダウン、作業効率を徹底追求--』『続・物流改善ケーススタディ65--コストダウン、作業効率を徹底追求--』(いずれも日刊工業新聞社)、『図解 ビジネス実務辞典 生産管理』(JMAM)、『生産管理のべからず89』(JMAC)