今回は、農業機械メーカーのクボタのDXを取り上げる。農業現場では人手不足の問題が大きく、抜本的な生産性向上の方法が求められている。そのため、AgriTechやスマート農業といわれるような農業でのIT活用が本格化。野村総合研究所は、AgriTech市場は2026年には790億円(2020年の2倍以上)に拡大すると予測している。
こうした状況の中、農業DXの動きが官民で盛んになっており、クボタ以外にもヤンマーや井関農機などの農業機械メーカーや農業ITベンチャーなども、DXへの取り組みに積極的だ。今回は、まず行政による農業DXの推進状況を概観した後、クボタのDXの取り組み状況や将来構想から、何を学べるかを考えてみたい。
【行政の取り組み】データ駆動型経営で農業を変革
農林水産省は昨年1月に「農業DX構想検討会」を立ち上げた。そして、その検討結果として、3月にまとめられたのが「農業DX構想」。これはデータ駆動型の農業経営により、消費者ニーズに的確に対応した価値を創造・提供する農業への変革を目標としている。
また、政府は2017年に「農業データ連携基盤協議会」(WAGRI協議会)を設立。そして、2019年4月には、農業・食品産業技術総合研究機構が運営主体となり、農業プラットフォームシステム「WAGRI」の本格稼働を開始している。これは、農業者にサービス提供する企業(農業機械メーカーやIT企業など)と、農業に活用できるさまざまなデータ(気象、農地、地図、生育予測、土壌の情報など)を提供する民間企業・団体・官公庁等との間での、有償または無償の情報交換のためのプラットフォーム。WAGRIを利用することで、農業者へより質の高いサービスが提供されることが期待できる。
【クボタのDX】利益の高い農業経営を実現
クボタは、『「農機×ICT」で、日本の農業に生産性革命を。』という方針で、利益の高い農業経営を可能にするスマート農業のためのソリューションを開発・提供している。そのため、超省力・高品質生産を実現するための農機のロボット化(自動運転化)や、営農支援サービスなどの提供に積極的だ。
クボタは昨年、2030年までの長期ビジョン「GMB2030」と、その実現に向けた土台作りと位置付けられる「中期経営計画2025」をスタートさせている。中期経営計画では、ESG経営の推進や持続的成長を支えるインフラ整備など5つのメインテーマが掲げられ、これらを効率的かつ確実に推進していくための取り組みとしてDX推進が設定されている。
そこでは、DXの基盤となるプラットフォームを整備し、「製品・サービス・生産現場」と「ビジネスプロセス」「コミュニケーション&コラボレーション」に変革を起こして、中期経営計画の推進を確実なものとしていく方針。そのために、クボタはDX関連で2025年までの5年間に、1000億円もの巨費を支出することを計画していると報じられている。
【製品開発】農業機械の自動運転に注力
クボタは2016年に、業界初となる「直進キープ機能付田植機」(GPSを活用することで直進時の自動操舵により真っすぐきれいな植え付けができる機種)を発売した。未熟練者でも真っすぐに田植えができるメリットは大きい。その後、クボタは直進自動操舵機能を搭載したトラクタも発売している。
クボタは既に、有人監視下での無人による自動運転作業を可能にした農業機械を開発・販売している。
・2017年:アグリロボトラクタ
・2018年:アグリロボコンバイン
・2020年:アグリロボ田植機
そして、現在は完全無人化への取り組みを進めている。そのためには、周囲や農地の状況を把握するための画像認識などの人工知能(AI)の活用が必須であるが、クボタはNVIDIAと提携する道を選んでいる。