2008年の決算で7800億円超という巨額赤字を背負った日立グループは、2009年、日立グループ会社の会長などを歴任していた川村隆氏を執行役会長 兼 社長に迎え、改革路線にかじを切った。川村氏は当時の改革は「まさにコーポレートトランスフォーメーションの基本そのものだった」としながら、その内容は「カ・ケ・フ(=稼ぐ・削る・防ぐ)」(注)
の改革だったと振り返る。川村氏の経営論に、GCA株式会社代表取締役の渡辺章博氏が迫る。

※本コンテンツは、2021年11月11日に開催されたJBpress主催「第4回 ものづくりイノベーション」の特別対談「日立グループを再生に導いた名経営者に聞く『私の経営(者)論』」の内容を採録したものです。

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7800億円の巨額赤字を出した“沈む巨艦”

 日立グループは7800億円超の巨額最終赤字をつくったのは、2008年決算のことである。

「このような結果に陥った原因を簡単に申し上げるならば、課題の先送り、ぬるま湯的経営、現状維持意識でしょう。諸先輩がつくった現状を変えるのはよろしくない、プロセスを守って粛々とこなしていくのが会社の仕事という気風が根付いていました。『沈む巨艦』と表現されるほどひどい状況に追い込まれ、2008年の世界金融危機には当時の日本の製造業の歴史上、最大の赤字を計上するに至った。このとき日立グループは目を覚まし、再生を目指すことになりました」

 そう話すのは、日立製作所元取締役会長の川村隆氏である。

 川村氏は東京大学工学部電気工学科を卒業後、日立製作所へ入社。電力事業部火力技術本部長、日立工場長を経て、1999年副社長に就任した。2003年以降はグループ会社の会長などを歴任したが、7800億円超の巨額最終赤字を出した直後の2009年に呼び戻され、執行役会長 兼 社長に就任、日立再生の陣頭指揮を執った。

 2009年から始まった日立グループの改革。それを一般化すると「コーポレートトランスフォーメーションの基本『カ・ケ・フ』〈注〉(=稼ぐ・削る・防ぐ)に落ち着く」と川村氏は話す。

「『カ』、既存事業の中で稼げる事業の『稼ぐ力をさらに深化』する。既存事業と周辺事業から探索し、需要の見込める『新規事業を立ち上げて稼ぐ』。この項目の実現が最大の難関であり、DXの力が発揮されます。『ケ』、既存事業のうち稼げなくなりつつある事業と今後の社業の非主幹事業は、移転・売却し『削る』。このとき出ていく従業員にはきちんと対応し、残る従業員には再教育を行います。『フ』、そして国内外のリスクである製品事故・災害・事変・地球環境・疾病・金融異変・地政学的課題を分析し対応策を決め、未然に『防ぐ』ことに取り組みます」(川村氏)

〈注〉『「カ・ケ・フ」という略称用語は、伊藤忠商事の岡藤正広会長が最近言い出されたものです。それを流用させていただきました。ただ、企業改革の際に稼ぐ・削る・防ぐという3項目を同時に行う必要があるという考え方は以前からのものであり、それらを略号化されたのが岡藤さんということです』