SDGs貢献に向けた昨今の企業の取り組み状況の変化

◆事業性×社会性の取り組み
 SDGs取り組みの事例として、IKEUCHI ORGANIC株式会社を紹介する。IKEUCHI ORGANIC株式会社は、旧池内タオル株式会社として1953年に創業した愛媛県今治市で今治タオルを生産している売上規模6億円のタオルメーカーである。2000年あたりまでは問屋からのOEM生産が主であり、問屋の不況の影響を受けた時期もあったようだが、現在は立ち直り、自社ブランドメインの生産・販売を行っている。

 IKEUCHI ORGANICは創業60周年の2013年に「2073年までに、赤ちゃんが食べられるタオルを創る」ことを行動指針とした。この指針の背景には、タオルの素材である綿花の栽培には大量の農薬が使用されており、栽培地の環境劣化につながること、またタオルとして使用する消費者の肌に悪影響が生じることをなくすこと、がある。

 実際に、この指針を実現するために、タオルメーカーであるものの、食品工場の安全基準であるISO22000を取得し、同じく食品工場の衛生管理基準であるHACCPに準じて生産体制を確立している。

 綿花栽培については、インドを中心とした生産者と適正価格で購入する契約栽培を導入し、量と品質の保証と生産者の生活向上に貢献する仕組みを構築している。また、企業が立地している地域の高校の職業体験としての場の提供や企業・工場訪問ツアーの開催のように地域住民や消費者とのコミュニケーションも積極的に行っており、ファン創出にもつながっている。

 このような「事業性×社会性」の持続可能性を意識した取り組み事例は、弊社が開発したSDGsカードゲーム「サスマネ - Sustainability Management -」でも紹介している。サスマネとは、事業とSDGsの目標実現を両立させ、ステークホルダーから応援される企業を目指すというビジネスカードゲームである。経営者となった各プレイヤーは事業活動を行い、そこで得た資金を元手としてSDGsに貢献するアクションを行う。

 昨今、サスマネのような、学び直しやリスキリングに向けたゲーミフィケーション研修が増加傾向にはあるが、SDGsの重要性や概要を理解するゲームと異なり、サスマネはSDGs貢献に向けた取り組み事例と、事業経営とSDGs貢献の両立の難しさを体感できるという特徴がある。また、事業を取り巻く環境変化をよりリアルに体感するため、リスクまたは機会となり得る外部環境、例えば好景気や不景気、増税や減税等をランダムに変化させる仕様となっている。

 実際に体験者からは「事業経営でキャッシュを稼ぐことと、社会・環境に関する活動を両立することの難しさを疑似体験できた」「事業活動がやはりメインとなってしまい、なかなか環境に意識しないと取り組めないところが実際の企業活動と同じだと感じた」「事業活動で得た資金をどの分野に投資するか、社長になったつもりで考えることができた。いかに事業継続、社会価値、環境への配慮をバランスよく行うかが鍵だということを学べた」「外部環境に左右されながら試行錯誤するというリアル感があった」などの声があり、SDGsの本来の目的を体感できるゲーム設計となっている。

◆SDGs貢献により企業は好循環を生むことができる
 SDGs貢献によるメリットとしてよく挙げられる点としてESG投資がある。世界のESG投資額の統計を集計する国際団体としてGSIA(Global Sustainable Investment Alliance)があるが、そのGSIAが2021年7月14日に発表した、ESG投資に関する統計報告書「Global Sustainable Investment Review(GSIR)」の2020年版(※GSIAは同報告書を2年に一度発行。2020年統計版は2021年に遅延)によると、2018年から2020年までの2年間で世界全体のESG投資額は15.1%増加し、35兆3010億米ドル(約3900兆円)となった。中でも日本は伸長率が高く、2018年の2兆1800億米ドルから2020年は2兆8740億米ドルへと31.8%増加した。金融機関の融資においても同様で、SDGsに積極的に取り組む企業への融資額は増加傾向にある。つまり、今後の資金調達においてSDGs貢献は不可欠である。

 また、SDGsに取り組まないと優秀な学生を採用できない状況にもなりつつある。株式会社学情が2023年3月卒業(修了)予定の大学生・大学院生を対象に、2021年8月に行った就職活動に関するインターネットアンケート結果によると、7割以上の学生がSDGsに取り組む企業は、就職活動で志望度が上がると回答している。

 また、文部科学省が2017年と2018年に公示した新学習指導要領の前文にも「持続可能な社会を創る」担い手を育てることが学校の役割であると明記された。そして2020年には小学校・中学校の教科書に、2021年からは高校の教科書でもSDGsが取り上げられるようになった。これにより、数年後には現在の大学生や大学院生以上に社会課題に関心を持つ”SDGsネイティブ”が新規採用者となるのである。

 すなわちSDGs貢献に取り組むことで、投資家や銀行からの資金調達をしやすくなり、優秀な学生も採用しやすくなる。経営資源であるヒトやカネを得やすくなることで、さらなる事業拡大やSDGs貢献へとつなげられるという好循環を生み出すことができる。

 この好循環は先に紹介したサスマネでも疑似体験ができる。サスマネでは、事業活動によって得られた資金をもとにSDGsに貢献するアクションをすることで社会ポイントと環境ポイントを得られる。社会ポイントが高い企業はインターン生の受け入れやESG投資を受けて資金を獲得できる。

 しかし、その一方で、ポイントが低い企業は不買活動による売価低下や採用活動停止等の影響を受けて稼ぎにくい企業となり泥沼化していく。これは環境ポイントにおいても同じである。サスマネは、社会課題解決に貢献しない企業が市場やバリューチェーンから見放されていく現実世界を再現したゲームである。

 最後に、繰り返しとなるが、SDGsの本来の目的がきちんと認識され始めた昨今において「SDGsウォッシュ」や「なんちゃってSDGs」の取り組みは、今となっては企業のマイナスイメージにつながってしまう。SDGsを経営戦略に組み込み、アウトサイドイン視点での長期的に経済的かつ社会的利益創出の取り組みを行うことで、ステークホルダーから応援される企業となる。それにより好循環が生まれて、さらなる経済的かつ社会的な持続可能性を両立する企業へ、SDGsのキーワードの1つでもあるTransform(変革)を遂げる。

コンサルタント 河合友貴(かわい ゆうき)

生産コンサルティング事業本部 サプライチェーン革新センター兼 サステナビリティ経営推進センター

大手電機メーカーで実務を経験した後、2018年にJMAC入社。製造業を中心に、SCM改革、製造/物流現場改善のコンサルティングを行っている。サステナビリティ分野では、GHGプロトコルスコープ3排出量算定やマテリアルフローコスト会計(MFCA)推進などを支援している。