D社のクレーム対応の実態と対策

 クレーム対応には、多くの部門が関わる。D社においては、得意先からのクレームを受け付けて対応する営業部門、営業からの情報をもとに発生要因を調査し報告を準備、また、発生状況によっては回収や出荷止めを判断する品質管理部門、その代用品を手配・準備する購買部門と複数部門が関わって対応することになった。

 D社では、得意先のクレーム内容の正しい把握、迅速な謝罪、発生要因の説明(報告書の提出)の遅れなど、対応が不十分なケースが見られ、二次クレームにつながる案件も見られた。これらの問題の根本的な要因はクレーム対応業務が単なる「報告書の作成、提出業務」になっていたことだった。すなわち、お客さまを意識した「迅速に納得いただける対応」になっていなかったのである。

「クレーム対応におけるお客さまを意識した対応」とは、クレームに対するお客さまの意見を正しく把握した上でアクションを決めること、そして、迅速に対応するための各作業に対する対応期間を守ること、の2点とした。

 これには、「正確性」と「スピード」が重要である。そこで、クレーム発生時のお客さまの要望を傾聴し、お客さまの製造・販売にご迷惑をかけないためのアクション(代用品の準備・手配、速やかな要因調査、調査結果や対策の丁寧な説明、謝罪等)のルールを作成した。

 そのとき、当該クレームにおいては興奮状態にないが、クレームが再発しており、今後、興奮状態が高まる可能性のあるお客さまに対しても、事前に謝罪や状況説明等の対応を行うように決めた。これにより、お客さまのクレームに対する要望については、1件1件、品質管理部門と営業部門で共有され、アンテナが張られる状態になっていった。

 次にクレーム対応の期間を設定した。「クレームを受け付けてから品質管理に伝達するまで」「調査報告書を作成するまで」「報告書を使ってお客さまに説明するまで」といった作業区分ごとに明確にした。

 クレーム発生原因調査と報告書の作成については、自社だけでなく発生元である仕入先の協力も必要になるため、時間短縮の改善も検討した。原因調査と報告書作成を確実かつ迅速に行うために、異物混入、毛髪混入、サイズ/重量バラツキ等の発生事象別に調査項目を明確にして仕入先と共有することで、仕入先の報告書作成レベルのバラツキを抑え、時間短縮もできるようになった。

 上記のような2点のポイントを織り込み、クレームを受け付けてから、確実にお客さまの納得をいただくまでの一連の流れをフロー化し、品質管理部門が司令塔となって実行状況を確認することにした。結果、営業部門/購買部門との連携も活発になった。

 営業との連携について、一例を紹介する。

 クレーム対応フローを動かすツールになるのが、営業が入力する「クレーム受付表」であった。1人が何十社を受け持ち、全国の営業先に出向いている営業でも、効率的かつ対策検討に必要な情報が入力できるように修正した。

 修正後間もない頃は、入力の不備もあったが、不備については品質管理が厳しく是正を促していくことで、正しく入力ができるようになり、品質管理と営業の無駄なやりとりも削減されていった。

 品質管理がどんな些細なことでもお客さまへの対応の遅れにつながる問題が見つかれば注意・是正を促す姿勢が、クレームに対する社内の問題意識を高め、営業の意識を変えることにもつながっていったのである。

 このように新しいクレーム対応フローを構築し、運用を順守することによって、二次クレームの発生もなくなっている。さらには、クレームの対応を通じて、関連部門でのコミュニケーションが増え、都度課題を見つけ解決していく動きが取れるようになるなど、好循環を生み出すことにも成功した。

コンサルタント 角田賢司(つのだ けんじ)

生産コンサルティング事業本部
プロセス・デザイン革新センターセンター長
兼 デジタルイノベーション事業本部 シニア・コンサルタント

IEをコア技術として収益向上のコンサルティングに取り組んでいる。自動車(部品)、化学プラント、樹脂成型、建材、食品等、多業種で収益向上の支援を実施。現場の生産性向上、品質向上、調達コストダウンや在庫削減等複数テーマを同時に展開、マネジメントの支援を行う。近年はタイ・中国等の製造拠点支援として生産性向上や品質向上の成果実現と併せ、マネジメントの仕組みづくり、ローカル人材育成を実践