海外でも進められるローカル5Gの導入検討
ローカル5Gの導入検討は、日本だけではなく海外でも進められている。
製造大国であるドイツでは、インダストリー4.0の実現に向け、5Gの産業利用を積極的に推進している。例えば、Audiは工場で部品を溶接するロボットの運用にあたって、ローカル5Gの試験導入を開始しており、数年以内に他工場に展開する方針を示している。また、BOSCHは工場内の複数の機械同士が、直接瞬時にデータをやりとりする環境の構築を目指し、5Gキャンパスネットワークの運用を開始している。
米国では、日本のローカル5Gに類似する制度として市民ブロードバンド無線サービス(Citizens Broadband Radio Service:CBRS)が存在する。これを活用し、農業機械メーカーであるJohn Deereは各郡に立地する同社工場にCBRS 5Gを導入する計画をしており、工場をスマート化することで、製造プロセスの改善や効率性向上を目指す方針を打ち出している。また、不動産会社のRudin Management Companyは自社所有の高層ビル内にCBRS 5Gを導入する予定であり、スマートビルディング管理(屋内空調、住民の出入り、エレベーターの監視等)に利用し、エネルギー効率の改善やフロア占有率のデータ管理を行うことを計画している。
日本において、産業分野でのローカル5G導入を促進するにあたっては、こうした海外の動向を注視しておくことも重要だろう。
ローカル5G導入促進に向けた留意点と課題
ローカル5G導入促進に向けた留意点、課題を幾つか紹介する。
ローカル5Gはあくまで通信ネットワークである。通信ネットワークだけが高度化しても、その他の関連技術やアプリケーションがそのままでは、威力が発揮できず宝の持ち腐れになってしまう。ローカル5Gの今後の普及に向けては、各種IoTセンサーやカメラ、ロボット・ドローン等の高性能化、AIを含めた分析・処理機能の高度化等もセットとして推進することが求められる。
事業主体としてローカル5Gを導入するにあたっては、導入初期費用の高さ、無線局免許の申請・取得のハードルの高さが障壁となっているとの声も聞かれる。直近では、民間のローカル5G導入のコンサルティングサービス等も見られるようになってきており、有効に活用することも一案であろう。
運用段階においては、言わずもがなのセキュリティ・プライバシー保護への対応のほか、自動運転や遠隔制御等における安全性・安定性の確保の一環として、フェイルセーフの原則に基づいてサービス設計を行ったり、冗長性(バックアップ)を確保したりすることも重要である。その他、ユースケースによっては、道路交通法や航空法等の法制度が障壁となっているともいう。
最後に、これらの課題がクリアできたとして、民間事業者としてローカル5Gを導入するか否かを決めるのは、ローカル5Gを活用したビジネスモデル展開が腹落ちする形で想起できているかどうかが大きい。総務省によると、2021年10月現在、ローカル5Gの本免許取得済の企業・自治体は66者に及ぶ。今後、ローカル5Gを軸として、さまざまなビジネスが展開されていくことに期待したい。