これからの国際協調の焦点は税制
これまで、国際的な規制の調和が図られてきた代表的分野として、金融規制が挙げられます。
かつては、金融規制も各国がそれぞれ行うのが普通でした。例えば、日本にはかつて長期信用銀行という独自の銀行形態があり、資本金プラス準備金の三十倍の債券を発行できるとされていました。すなわち、三十倍のレバレッジをかけて良いと日本が独自に決めていたわけです。
しかし、おカネが本質的に物理的国境に制約されにくい中、国際的に活動する銀行が出てくると、国による規制の違いが国際競争の公平性や金融システムの安定性に大きな影響を与えることになります。そこで、「バーゼル規制」のように、規制の水準を国際的に揃えようという動きが起こってきたわけです。
そして今や、地理的国境が制約にならない動きは、おカネだけでなく、モノやサービスにも広がってきています。したがって、金融規制の次に国際的な調和が課題となりやすいのは、やはり税制でしょう。
脱炭素化・カーボンニュートラルの影響
1980年代末に登場したバーゼル規制も、その議論は一度では終わりませんでした。むしろ、刻々と変化する経済環境の中で、規制は絶えずアップデートを迫られてきました。おそらく、税制の分野でも今後、同じことが起こっていくだろうと思います。
とりわけ影響が大きいのが、脱炭素化・カーボンニュートラルの動向です。
現在、脱炭素化の取り組みについて、世界の足並みをどう揃えるかが大きな課題となっています。脱炭素化にはコストがかかりますので、他の国々が必死に取り組む中で、自国だけは努力をしない国が短期的には得をしやすいというフリーライド(タダ乗り)問題を伴います。この問題は、「母国での規制が緩い企業が国際競争で有利になり得る」という点では、金融規制と構図が似ています。
この問題への対応として、「脱炭素化に真剣に取り組まない国からの輸入品には高めの税金を課してはどうか」といった議論も増えています。ただ、「脱炭素化の真剣さ」などを定量的に評価するのは容易ではないため、このような課税は保護主義の隠れ蓑として使われてしまう可能性もあります。
このため、今後とも課税の分野では、「これは本当に必要かつ妥当な課税なのか」「自国を不当に有利にするために課税を使っていないか」といった議論が続くと予想されます。このような国際的な議論で日本が不利に回ることのないよう、日本としても議論の動きを注意深くフォローし、関与していく必要があります。
◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。
◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。