10月に行われたG20の最大の成果は、デジタル時代の課税を巡る国際的な対応の前進であろう。元日銀局長の山岡浩巳氏が議論のポイントと課題を解説する。連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第58回。
10月13日に米国ワシントンDCで開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議の一連の国際会合での最大の成果は、デジタル時代を象徴する政策課題である多国籍企業(Multinational Enterprises:MNEs)への課税について、グローバルな協調が進んだことです。
BEPSの問題
近年、国際的に活動する企業への課税を巡り、BEPS(Base Erosion and Profit Shifting、訳すとすれば「税源の浸食と利益の移転」)と呼ばれる問題が、大きなテーマとなってきました。
従来、多国籍企業への課税は、“PE”(Permanent Establishment、「恒久的施設」)という考え方に沿って行われてきました。すなわち、多国籍企業が進出先に支社や事業所などの「恒久的施設」を持つ場合、そこでの売り上げから得られる利益については、その国が課税できるという考え方です。
これは、かつての経済環境の下では比較的実効性の高い課税方法でした。多国籍企業による進出先の国でのモノの販売や対面でのサービスの提供は、支店や事業所のような「恒久的施設」を拠点として行われることが殆どであり、利益の発生場所と物理的な拠点がほぼオーバーラップしていたからです。
しかし、デジタル技術革新の下、このような前提は大きく崩れつつあります。
例えば、電子書籍やデジタルアート、楽曲などのデジタル資産をインターネット経由でキャッシュレスで売買する場合、利益の発生を物理的拠点から追うことはもはや困難です。このような取引を管理するサーバーは世界のどこにあっても良く、消費国に物理的な拠点を置く必要はないからです。これまで「恒久的視点」に依拠して課税をしてきた国々にとっては、このようなデジタル経済活動が広がり、既存の国内産業のシェアが奪われていくと、税源も侵食されることになります。
また、デジタル経済の中核を担うデータは、使っても減らず、保管にも場所を取らない上、集積するほど強力になるという性質を持っています。このため、いわゆる“GAFA”に代表される巨大デジタル多国籍企業は、分散するのではなく、むしろ人材獲得などの点で有利な特定の国々に本拠を置き、そこから全世界に向けてビジネスを展開する傾向がみられます。そうなると、このような巨大デジタル企業を自国に持たず、主に需要地や市場となっている国々は、巨大デジタル企業が自国民への販売からいくら利益を上げても、これに課税することが難しくなってしまいます。