CPMIはビットコインの登場当初から暗号資産に注目してきましたが、ビットコインにFMI原則を適用せよとは言っていませんでした。これはCPMIが、ビットコイン型の暗号資産は支払決済には使われず、もっぱら投資の対象になるとみていたためです。このため、各種国際機関の提言も、投資家保護に関するものが中心でした。

 これに対し、今回CPMIがステーブルコインへのFMI原則の適用を提言したことは、CPMIが、ステーブルコインを支払決済の手段として捉えていることを示しています。だからこそ、今度は支払決済インフラという観点から、規制監督のあり方を考えるようになったわけです。

「FMI原則」のステーブルコインへの適用を巡る注目点

 とりわけ注目されるのは、FMI原則の「第9原則」、すなわち、支払決済は、可能であれば中央銀行の債務で行われることが望ましく、民間銀行の債務で行う場合にはリスクを最小化すべき、という原則です。

 この原則に基づけば、上述のように裏付け資産が十分でなかったり、裏付け資産の中にリスク資産が組み込まれたステーブルコインは、支払決済に広く使われるべきではないということになります。このような提言が明示的に行われたことは、既存のステーブルコインのスキームの変更や、これから登場するステーブルコインの設計への規律付けにつながるかもしれません。今回の提言がステーブルコインのデザインにどのような影響を及ぼすのか、今後注目していきたいと思います。

◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。