近年、デジタル金融分野で頻繁に使われる言葉に、「チャレンジャーバンク」と「ネオバンク」があります。必ずしも唯一の定義がある訳ではありませんが、通常、「チャレンジャーバンク」は、銀行免許を持つ銀行が大規模なデジタル化を進めるもの、「ネオバンク」は銀行免許を持たない企業が銀行類似のサービスを提供するものを指します。
Nubankは、銀行免許を持たない決済事業者であり、「ネオバンク」に属します。Nubankは、銀行口座にアクセスできない人々がなお多いブラジルで、スマートフォンを通じて銀行口座類似のアカウントを無料で提供し、さらにクレジットカードなども発行しています。加えて、最近では融資や保険などのサービスも提供しています。
このように、「金融包摂」(financial inclusion)、すなわち、ブラジルの人々への基本的な金融サービスの普及をビジネス化していることが、Nubankの特徴です。Nubankの主な収益源はクレジットカードの金利収入ですが、これまで金融サービスが未発達であったため高金利の支払いを余儀なくされていた人々が多かったことから、クレジットカードを通じた与信には十分な収益余地があるとNubankは説明しています。
また、スタートアップ企業であるNubankは、過去のレガシーがない分、既存の金融機関に先んじて新しいビジネス環境に対応しやすい面もあります。例えば、Nubankのクレジットカードの表面には所有者の名前だけが記されており、カード番号やセキュリティコードなど、外部から見られたら危ない情報は一切書かれていません。これは、最近のセキュリティ重視の風潮に先んじて対応しているとも言えます。
地理的制約は希薄に
このように、デジタル化の一つの帰結として、従来は「地理的な遠隔性」によって維持されていた優位・劣位が相対的に小さくなり、新興国・途上国を含め多くの国々が、経済の一足飛びのキャッチアップ(いわゆる「リープフロッグ」)の機会を持つようになったことが挙げられます。実際、今や先進国だけではなく、アジア、アフリカを含め世界中で、多くの先進的なデジタル企業が登場しています。日本としても、米欧や英語圏に限らず、世界中で起こっている新たな動きをフォローしていく必要があります。
また、新興国や途上国のほうが、これまでさまざまなサービスが十分に普及していなかった分、経済活動の伸びしろ(いわゆる「ブルーオーシャン」)が大きいとも言えます。
この中で日本企業も、日本だけをターゲットにするのではなく、新興国・途上国を含め海外でも広く応用可能なビジネスモデルを創り出していくことが大事になります。
◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。
◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。