例えば、現在話題を集めている「中央銀行デジタル通貨」について、試験的な発行を行っている国としては中国が有名ですが、実は南米のウルグアイとエクアドルが、中国より先に試験的に発行しています。さらに、バハマや東カリブ諸国は、既に公式に中央銀行デジタル通貨を発行済みです。
ラテンアメリカでデジタル化の動きが目立っている背景としては、まず、決済や送金などの金融サービスをはじめ、基本的な経済サービスの普及がもともと十分ではなかったことが挙げられます。日本や北米で銀行口座を持たない成人は限られていますが、ラテンアメリカではなお、相当数の人々が銀行口座を持っていません。それだけに、デジタル化をバネとして、さまざまなサービスを行き渡らせるニーズも大きかったと言えます。
また、デジタル技術のグローバルな拡散も挙げられます。今や、南米の人々の間にもほぼスマートフォンが行き渡り、アプリ経由でさまざまなサービスにアクセスできる可能性も広がりました。
また、バハマや東カリブ諸国が発行した中央銀行デジタル通貨のアプリを見ても、先進国のモバイルペイメントと殆ど遜色ありません。製造業の職人的な技術などとは異なり、例えば、ソフトウェア開発のプラットフォームである“GitHub”には世界のどこからでもアクセスできます。このように、デジタル技術には地理的制約が働きにくく、これまで先進地域でなかったことが、必ずしも不利につながらなくなっています。
さらに、ラテンアメリカの人々は移民や出稼ぎ、留学などさまざまな形で米国との接点が多く、米国の動向が直ちに紹介され、応用されやすいことも挙げられます。
加えて、社会的にもインフラ拡充への要請が強い中、一つの企業グループが金融を含む広範なサービスを一体として提供することへの規制が、米国や欧州と比べて相対的に緩めであることも指摘できます。