自由に伴う混乱を現場もトップも受容する
さて、目の前の課題や業務といった身近なことについての提案や、考える自由について述べてきたが、管理職クラスになると「テーマ設定力」が問われてくる。
そもそもなにに取り組むべきなのか、ということだ。上位から展開された計画をブレイクダウンすることはできるが、新しく課題を提案しろといわれても難しい、という本音を漏らしてくれる部長もいる。実際のところ、「テーマ設定力」はベテラン、若手問わず、課題である。
ある部品会社では、若手層・中堅層・管理職層に分かれて、半年間、全て自由に動きなさい、という活動を8期にわたり展開した。担当のコンサルタントにも「なにも導かなくてよい」と言われ、当時、若かった私はメンバーと一緒に、苦しみや楽しみを過ごす、という役割だった。
当時はトップダウンの強い風土であり、第1期の管理職層の「新商品提案」活動では、初回に落としどころを考え始め、「役員はきっとこういうことを望んでいるだろう」と、やはり正解探しに向かっていった。それではなにも変わらないよね、ということで、最初の2カ月くらいはアイデアに収束が見えず、メンバーはみな不安だった。
しかし、もう手詰まりだという雰囲気になったら、「このテーマにしてみようよ」と誰かが突破口を切り開いてくれるものである。そこからは、さすがの管理職層であり、テーマを具体化したり検証したりする行動を楽しく加速していった。私もホワイトボードに幾つもメンバーのイメージを絵に描いたりして一緒に試行錯誤した楽しい思い出がある。
「テーマを決める」には、価値や技術等、ある程度、押さえるべき基本的な考え方は存在するが、一番重要なのは「自分で決める」という怖さを克服することだ。
自分で決めるということは自分に対する責任を負うことになる。本当はもしテーマが的を射ていないことが分かったとしても、責められたり評価が下がったりということはまれなのだが、まじめな社員は自分で自分を責めてしまう。
しかし、その必要はないのだと気付けば、自分で決める自由が怖さから楽しさに変わってくる。実際、この会社の活動ではオーナーである役員も、どんな内容であれ否定したり厳しく追及することはなかった。
また、中堅層の「技術戦略提案」活動では、ひたすら自分たちの興味のある領域を調べたり実験したりするだけで半年を終え、具体的な提案はなかったものの、役員は次期研究テーマとしてメンバーをアサインしたのである。毎回の活動が全て次につながったわけではないが、職場の雰囲気は明らかに「テーマ提案をしていいんだ」という雰囲気に変わってきた。
このように、トップからのインプットはなく自由に活動してよい場のことを「サンドボックス」と言ったりするが、トップがうかつに指示や評価をせず、さまざまな意見を受け入れる寛容性がサンドボックスの成否を決める。
管理職は時間という余裕だけではなく、イノベーションに取り組む「自由」をメンバーは感じているのかを点検してみてほしい。そして、本当に「自由」にさせる寛容さを自らは備えているかを、振り返ってみてほしい。
コンサルタント 大﨑真奈美(おおさき まなみ)
R&Dコンサルティング事業本部
R&D組織革新・KI推進センター
チーフ・コンサルタント
技術者・研究者の企画力向上や、R&D組織革新の支援に従事している。最近は、技術者・研究者の心に火をともすことをミッションとしており「火おこし」役として日々実践・研究をしている。2児の母。カウンセラー資格を持っている。