BIS・IMF・世界銀行報告書
こうした中、7月に公表されたのが、国際決済銀行(BIS)・国際通貨基金(IMF)・世界銀行の共同によるG20向け報告書(“Central bank digital currencies for cross-border payments”)です。
この報告書は、現在話題の「中央銀行デジタル通貨」(銀行券などと同様に、中央銀行が債務者として発行するデジタル通貨)を利用して、国際送金の迅速化とコスト低減を実現する可能性について検討しています。そのうえで、いくつかの採り得るモデルを示してはいるものの、「なお分析されるべきさまざまな重要かつ複雑な問題が残されている」(Various important and complex questions are still to be further analysed)と結論付けています。
結局、ブロックチェーンなどの新技術や中央銀行によるデジタル通貨の発行が、それだけで国際送金のコストを抜本的に引き下げられるわけではありません。
同時に、複数通貨間の為替レートの問題は、各国政策の自律性とも関わる問題であり、国際送金の観点だけで独自通貨を放棄する訳にはいきません。また、支払手段を提供するのが誰であろうが、今や国際送金の問題からAMLやKYCは、中央銀行がデジタル通貨を発行する場合でも、中央銀行が全国民に口座を提供し、自ら日々のAMLやKYC業務を行うことは想定しにくい訳で、誰かがそのコストを負担しなければなりません。実際、多くの中央銀行は、「仮にデジタル通貨を自ら発行することになった場合でも、民間銀行などを経由して間接的に発行する」と表明しており、AMLやKYC業務は民間に委ねる意向を表明しています。
このように、送金コストの問題には、通貨制度そのものや、デジタル化により新たに拡大した金融面からの犯罪抑止の役割などが大きく関わっているのです。
◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。
◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。